225. 水とは何か? 水クラスター説の誤り!! 水の氷点は0℃以下のことも! 生き物にとって危険な温度とは?

 2010年 1月10日掲載  2014年 4月17日再掲


ブルーバックス「水とはなにか」(上平恒、2009年7月20日)は水の不思議を知るのにもってこいの教科書です。この本の初版は約30年前に出版されましたが、ここ30年間の水に関しての知見を加えて、新装版として発行されたものです。

種々の興味ある事柄が、わかりやすく説明されていますが、その中より、次の項目につき、そのポイントを引用させていただきました。

※水の基本的な性質
 液体の水では、水の分子間に水素結合による弱い結合がある。液体の水の構造は決して不変なものではなく、たえず生成消滅を繰り返している。その平均寿命はわずか10の−12乗秒程度の想像もつかないくらい短い時間である。


水クラスター説は誤り

1990年にミネラル水などのいろいろな水 − 種々の微量成分が溶けた水溶液 − が健康に良く、おいしいのは水のクラスターが小さいためであるという考えが提案された。この考えは、水のO−17NMR(※Oは酸素の元素記号)スペクトルの半値幅の値が水によって異なるという測定結果に基づいている。

クラスター説はプロトン交換時間の長短がクラスターの大小を表すと誤解したものです。

クラスター水は科学的な外観を装って消費者をごまかしている疑似科学の一部です。


※ 水クラスター説に関する一番最初の記事

 現代化学 1989年1月 pp62〜67 松下和弘
 食品をNMRでみる  分子レベルでとらえた「味」の違い

 「4.蒸留酒の熟成は水分子の状態変化である」の部分を引用






p76〜 お酒の濃度と安定性

   ブドウ酒   10〜15%     ウイスキー  43〜52%
   日本酒    16〜20%     ブランデー  49%
   焼酎     30〜45%     ウォッカ    50%

エタノール濃度40%付近で自己拡散係数がいちばん小さくなっている。すなわち、この濃度で熱運動が一番遅くなっている。この濃度では、エタノール分子1に対して水分子4の割合となる。





酒と熟成の化学(2009年3月)によると、

p5

「すべての酒類に共通する(広義の)熟成機構」は、恐ろしいほど単純な原理に基づいている。酒を酒たらしめる要因、すなわち、人が飲んで楽しむ酒を、単なるエタノール水溶液から切り離す条件は、時間経過にあるのではなく、溶液中に含まれる成分の問題であり、有機酸やポリフェノール類が共存しているかどうかなのである。

この熟成機構を、順を追いながら説明すると、次の3点に集約される。@エタノール水溶液に少量の有機酸やポリフェノール類が存在することにより水の構造性(正確には、エタノール水溶液の水素結合構造性)が発達する。A水の構造性が発達し、固体の水に似た構造に近づくと、水構造の中にエタノールがうまく取り込まれ、水とエタノールが一体化する。Bエタノールが水と一体化することは、エタノールの特性が発揮されなくなることにつながり、具体的に、口腔や咽頭の粘膜へのアルコール刺激が低減する。

※著者はこのようなお酒が飲みやすいお酒であると言っている。
 p123 お屠蘇(とそ)にはお酒にいろいろな成分を加えるので、子供でも飲みやすいものとなる。
※蒸留酒を樽などで保存する場合には、樽から染み出してきた成分により酒の熟成が進む。
 p76 モルトウイスキーを樽熟成させた時、シェリー樽を用いると(熟成に)大きな効果が得られた。シェリー樽の木材にしみ込んでいたシェリー酒の有効成分が、少しずつウイスキーに溶け出した結果である。

p129 約80%エタノール水溶液は、殺菌力が強く、注射をする前の皮膚の消毒などに使用される。飲用には適さない水−エタノール混合物に、各種の有機酸、アミノ酸、ポリフェノールなどが溶存することにより、引用可能な酒に転換される。


その他、「水とはなにか」から得た知識

1.水の融点は必ずしも0℃とは限らない
 狭い空間にある水の融点は0℃以下である。この意味では、水自身は自分の環境を自ら知っていることになる。土壌中の水や細胞内の水は0℃では凍らない。理由は本書中に記されている。




2.生き物にとって危険な温度は、15℃、30℃、45℃、60℃である
 2枚のガラス板に水を挟み込んだ後に、このガラス板をはがした時、温度によってその必要な力が異なる。力が必要な温度は、生物にとって要注意である。 p193 人は体温が27℃になると凍死するが、一方体温が45℃になっても死んでしまう。
 鳥類の体温は41℃であるが、致死温度は同じく45℃である。飛べないダチョウやペンギンの体温は38〜39℃である。

 


3.キセノン(Xe)でも麻酔ができる理由の説明




参考にした本
             
水とは何か(ブルーバックス)


詳細
水素と酸素からなる最も簡単な化合物―しかし、見かけは単純でも水は常識を超えた多様な性質を持つ。
固体(氷)よりも液体(水)のほうが密度が高く、物質を溶かす能力は群を抜き、表面張力が極めて大きい。
生命システムでも重要な役割を果たす「水」の不思議をさぐる。


第1章 分子レベルでみた気体・液体・固体
第2章 水の構造をさぐる
第3章 水溶液の構造
第4章 界面と水
第5章 生体内の水
第6章 麻酔・温度・圧力
第7章 低温生物学


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