183. 大澤映二先生が考える科学技術のあるべき姿とは すぐに役立つ科学技術のみを求めると事業仕訳で負ける

 2009年12月18日掲載  2014年 3月 5日再掲




大澤映二先生は知る人ぞ知る、かのフラーレンの存在を計算科学で予測した方である。フラーレンとは炭素原子60個で構成
れるサッカーボール状の構造を持っ化合物である。


Wikipediaより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%
BCE3%83%AC%E3%83%B3




C60フラーレンの発見は1985年であるが、それ以前に C60 構造の存在を予言していた学者がいる。豊橋技術科学大学の大澤映二は、1970年頃、ベンゼンが5つ集まって皿状になった「コランニュレン」という物質の構造がサッカーボールの一部と同じであることに気づいた。ここから、実際にサッカーボール状の C60 も存在しうると考え、考察の結果を邦文雑誌などに公表した。だが、これが掲載されたのは日本語の文献のみで、英語などでは発表していなかったため、欧米の科学者には知られることなく、ほぼ15年後に実在が確認される結果となった。



先生は大学在職中に200あまりの論文を書かれたが、そのほとんどすべては英文で書かれたものだ。ただ、1報だけ日本語で書かれた論文があり、それがこのフラーレンの存在を計算科学的に予測したものだ(Wikipedia記事がが記しているように)。先生自身も、本当にそのような化合物が存在するとは内心考えていらっしゃらなかったかもしれないが(これは私の勝手な思い込みです)、もし、この論文が英文で書かれていれば、ひょっとするとひょっとして先生はノーベル賞を受賞されたのではないとひそかに思っている。

日本は理論科学に強い。量子力学はもとより、福井謙一先生のフロンティア電子軌道など、素粒子や化学物質の性質の予測にかけては秀でたものがある。この科学の積み重ねの上に、先生が炭素でできたサッカーボールを予見されたということはそれなりに意味があることであると考えている。


以下に関連記事を引用しますが、先生が研究の進めの中で書いていらっしゃる内容には含蓄があります。



大澤映二教授がフラーレン(C60)予言の論文を英語で書いていたら、ノーベル賞を受賞したでしょうか?

http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa2946539.html



株式会社 ナノ炭素研究所 大澤先生が社長を務める会社

http://nano-carbon.com/hisadokushi.html



研究のすすめ ナノ炭素研究所 大澤映二

http://nano-carbon.com/GeneralRemarks_pdf/187.pdf

3.研究は役に立たないといけないか?
研究は, かなり特殊な行為であって, 一般にはほとんど理解されていない。おそらく大部分の人は, 誰が研究者なのか, 研究者はなにをしているのかを知らない。研究が国家の重要事業となって, 研究者の側からも, 自分たちは何をしているかを説明するのは, 納税者に対する義務であろう。ここでは研究を知らない人達が, 研究費の配分にあたるために起こる困った問題について述べる。

参考)事業仕訳の問題
スーパーコンピュータ予算復活し、施設建設が急ピッチで進行中
http://highsociety.at.webry.info/200912/article_21.html

最近国の研究助成金の募集, 審査, 執行にあたって, 研究結果の出口の重要性が問われることが, 多い。端的に言うと, 研究課題の申請にあたって, 数年以内に事業化できるような, 明確な見通しをもつことが強調される。もっと俗な言葉を使うと,「役に立つ研究でなければ, 助成できない」という言い方になる。

この言い方は一見もっともに聞こえるので, そのとおりだと思う申請者が多いようであるし, 予算配分に与る人達は自信をもって切り札のように唱える。

このような傾向は, 以前からあったが, 最近特に強くなったのでいささか心配である。

小柴昌俊先生が2002 年にノーベル物理学賞を受けられたとき, 翌日の朝刊に載った先生の第1 声は「私の受賞研究は, 全然役に立ちません」であった。確かに, ニュートリノの発見は少なくとも数年以内に世の中に役に立つという性格ではない。ところが, この研究はほぼ100 %, 莫大な国費を使って行われた。

これに対して研究費を援助した文部省の担当者が正しく, 一方科学技術基本法の執行にあたって, すぐ役に立ちそうな研究課題だけを選ぶことを唱える担当者が間違っている。これほど水準の異なる見解が, 同じ国の省庁間に存在するのは, 驚きであるが, なぜこのようなことが起きているのか, 役に立たない研究をしてもよいのか, などについては, 紙数の都合でここでは深入りしない。

ただ, C60の発見で1996 年ノーベル化学賞に輝いたH. Kroto がよく言っていた言葉を引用しておくに留める:

「大きな科学的発見は, すべて偶然の産物で, 意図的に行われて成功したものはない。人間の頭脳は, 新しい発見に関しては, 些細なことでも苦手である。ましてや, 大きな発見は仕組んで見つかるものではない」。