66. 水ビジネスと浄水器 なぜ日本トリムの売上高が低下してきているのか?

 2009年 1月 6日掲載  2014年 1月13日再掲


食の安全が叫ばれて久しいですが、昨年は特にその安全が意識された年となりました。中でも、非常に特殊であったのは伊藤ハムのシアンに汚染された井戸水騒ぎでしょう。実害がなかったので騒ぎと書きました。

今日、世界的には水の不足が深刻になっています。それに比べて日本では、川の上流や沢の水はそのまま飲めます。また、豊かな地下水や、場所によっては伏流水があります。

とはいっても、都会に生活する者にとっては、水道水中の塩素臭や、含まれるトリハロメタンに気を使い、夏にはカビ臭に嫌気するところです。「美味しい水が飲みたい。」 これはだれしも願うところです。

そこでビジネスとして登場したのが、ペットボトルでの水販売や家庭用の浄水器(整水器ともいう)です。

まず、ペットボトルでの水販売。これは日本ミネラル協会の統計を見ますと、その市場が年々拡大してきていることがわかります。

ダブルクリックすると図が大きくなります。





浄水器については浄水器協会のホームページに、2007年7月時点での普及率が34.0%と記されています。また、MDB市場調査レポートにはその市場規模が年々拡大し、2006年には320億円市場であったと記されています(日本の24社の売上高合計で、下に示す日本トリムは含まれていません)。



浄水器出荷台数の別の統計もあります。



家庭用浄水器の種類には次のような種々の種類があります。
  1.元栓直結型浄水器
  2.ビルトイン浄水器
  3.逆浸透膜浄水器
  4.シャワー浄水器
  5.活水器
  6.アルカリイオン整水器
  7.卓上型浄水器
  8.蛇口直結型浄水器

この中で、近年売上を大きく伸ばしていたものがアルカリイオン整水器です。アルカリイオン整水器協議会の資料には、その売り上げの推移が記されており、平成元年から16年までの販売台数を合計すると、なんと約600万台が販売されたことになります。1ファミリーが3人とし、日本の人口が1億2500万人とすると、日本国民の7人に1人がアルカリイオン水を飲んでいることになります。



ただここで気になるのは、この統計の数字が平成16年で途切れていることです。なぜでしょうか?

日本トリムの電解還元水整水器がその高い価格にもかかわらず浄水器の中でも高いシェアを誇っています。この整水器は医療器具として登録されています。日本トリムの売上高を90億円とし、整水器が1台30万円とすると、年間販売台数は約3万台と計算され、電解還元水整水器の約10%弱のシェアを確保しているものと考えられます。

   本体標準価格\285,600(税込)(取付工事費別)
   ●効能又は効果
   胃腸症状の改善
   ・胃もたれや胃の不快感をやわらげます。
   ・胃腸の働きを助け、お通じを良好にします。

無借金経営に加え、昨年の5月には「岩谷産業グループとの水事業で広範な業務・資本提携」を結び、絶好調かと見受けられましたが、次に示すようにその売上高と利益はここ数年下降傾向にあります。

日本トリムのホームページより



なぜ、日本トリムの浄水器だけが? 価格が高いことが問題なのでしょうか? そうだとしたら、この価格帯の浄水器を購入する顧客層への販売が飽和に達してきたことになります。

あるいは、Wikipediaの「アルカリイオン水」に記されるように、効能が不明確であることや、商品の評価についてのある種の啓蒙が進んできたことによるものかもしれません。たとえば次のような記事があります。

疑似科学の真相/深層をよむ(岩波「科学」)
日本トリムの商品。アルカリイオン水や電解還元水など? 
素人にはアルカリイオンもマイナスイオンも良くわかりません。でも日本トリムは東証1部の企業で業績は良く、有配当企業ですね。整水器が売り上げの8割以上で、ある意味専業の水商売の企業で特殊なビジネスモデルだと思っています。
「水商売ウォッチング」を見ていただくのがいちばんよいです(「水商売ウォッチング」で検索してみてください)。
簡単にいうと、「活性水素」は学会で認められていませんし、日本トリムはその「活性水素」説を言い出した白畑教授と共同研究をしています。
ただし、活性水素云々は忘れてもおいしい、という人はおり、それは健全な考えであると思います。つまり、「おいしいから飲む」なら問題はないですが、「健康によい」ことを期待するなら、水道水と大差ないでしょう。

要するに普通の水に28万円を投ずるかという議論です。

なぜ日本トリムの売上が減少してきたかを調べようとしたのですが、詳しいことはわかりませんでした。何事も流行と言ってしまえばそれでわかったような気にもなるのですが? この価格帯での市場が飽和してしまったというのが私が出した答えです。整水器の販売価格を1台30万円として、売上高より販売台数を算出し、その累計台数をプロットすると、販売がピークを越えて減速局面になったことが確認できます。




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