説明資料 11
  
 失敗知識データベースの紹介である。このデータベースには次の技術分野ごとに過去の失敗事例が収められている。その編集方針は、多くの事故例を掲載することではなく、特徴的な事故例を示すことで事故の本質を知り、同様の事故発生を防止することにある。

 技術分野:
   機械 化学 石油 石油化学 建設 電気・電子・情報 電力・ガス 原子力
   航空。宇宙 自動車 鉄道 船舶・海洋 金属 食品 自然災害 その他

 化学に関しては199件の事例が収められている(スライド1、事例の一部)。その中より、反応熱の発生に除熱が追い付かず、反応が暴走して事故に至った例を抽出し、分類した。スライド2である。

 まず、反応暴走の根本原因は反応熱が除去できなくなるところにある(説明資料12)。一般的な化学反応では反応の活性化エネルギーは30kcal/mol程度である。この活性化エネルギーでは、反応温度100℃付近で行う反応であれば、反応温度が10℃高くなると反応速度は約3倍、同様に200℃の反応温度であれば反応速度は約2倍となる。反応速度が速くなればそれに比例して反応熱が発生するので、冷却が追いつかなくなる。その結果、反応は暴走に至る。

 化学反応の暴走事故はその原因で大きく5つに分類できた(スライド2)。

A 冷却不良
  反応器には反応熱除去のために冷却液を流すが、何らかの理由でその冷却液流量が低下したり、冷却液温度が高くなったため、所定の冷却効果が得られず、反応の暴走に至ったもの。冷却液の配管にスケールが付着し冷却液の流量が低下することもある。

B 反応温度高
  所定の反応温度より高い温度で反応を行い、その結果反応が暴走したもの。

C 過剰仕込
  所定の仕込み量よりも多くの量を反応器に仕込んだため、除熱が追い付かなくなり反応の暴走に至ったもの。発生する反応熱は仕込み量に比例して大きくなる。

D 攪拌再開時
  一般的に化学反応はある原料を反応器に仕込んでおいて、もう一方の原料を連続的に加えながら行う。この反応時に、攪拌が異常停止したにもかかわらず、原料の仕込みが継続してしまった場合、攪拌再開時に反応が一気に進み、大きな反応熱を発生することになる。

E 蓄熱の進行
  化学反応は進んでいないように見えても、徐々に進んでいるものである(説明資料12のスライド2、説明資料20のスライド2を参照)。反応の進行に比例して反応熱が発生する。反応温度(反応液温)が10℃高くなると反応速度は2~3倍と加速し、急激に反応熱が発生して反応液温をさらに高くする。そして反応が急激に加速して、反応器の破壊に至る。スライド2の死傷者数を見ても、このタイプの暴走反応が起こると大きな災害となる。

 以上、反応熱が除去できないためにおこる事故事例をA~Eの5つのタイプに分けて説明した。各タイプ共に繰り返し発生している。

 反応温度の上昇により反応熱の除熱ができなくなる理由は説明資料12、東ソー塩ビモノマー製造設備爆発事故は説明資料15、三井化学岩国大竹工場の爆発事故は説明資料16、日本触媒でアクリル酸タンク爆発は説明資料17でその詳細を解説している。

  
 
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