説明資料 16
  
 三井化学のプラントがなぜ爆発に至ったかの説明である。

 このプラントはスライドの反応式に示すように、ベンゼンの誘導体(カテコール、m-ジヒドロキシベンゼン)を作ることを目的としている。原料であるDIPB(m-ジイソプロピルベンゼン)を酸素酸化して黄色でハッチングした過酸化物中間体を得る。この過酸化物中間体が分解して目的の化合物であるカテコール(スライドの右端の化合物)を得る。

 この反応式を簡略化して記すと、次の反応式となる。クメン法である。カテコール製造の場合には出発原料にはベンゼン環に置換基が2個ついている。


 事故に至るステップは下のスライドに示されている通りである。

 設備への供給スチームが停止し、それに伴いこの設備も緊急停止した(インターロックが掛かった)。酸化反応のために反応器の底部より吹き込まれていた酸素は自動的に停止し、それに代わって攪拌用の窒素ガスが底部より吹き込まれた。この底部からの窒素ガスは反応器内に液循環を起こし、反応液全体の温度を均一に保つと同時に、その循環により反応器下部にある冷却管と反応液の接触を良くして反応液の冷却にも重要な働きをする。

 重要事項であるので確認であるが、反応器の冷却管は反応器の下方部にしか設置されていないので、反応液全体を均一に冷却するためには、この窒素ガスによる液循環が必須となる。

 インターロックが掛かってから80分後、反応液の温度の下がりが悪いと思った運転員は、インターロックを解除して蛇管式冷却管に冷却水を手動操作で入れることにした。この時、運転員はインターロックを解除すると、反応液攪拌のための命綱ともいえる反応器底部からの窒素ガスの供給が止まることを知らなかった。

 かくしてインターロックが掛かってから80分目に反応液の上下流(対流)がなくなった。反応器の上部では過酸化物は徐々にではあるが分解を続け、その分解速度は反応温度が上がるに従がって加速度的に速くなっていった。悪いことには反応器内の反応温度を測るための温度計は反応器上部にはついていなかった。そのため、反応器内で反応温度が異常に上昇してきているのに気づかなかった。

 かくしてインターロックが掛かってから175分後に反応器の破裂に至った。それは反応器の上部温度の急上昇を確認した170分後からわずかに5分後のことであった。

  
 
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