説明資料 1
  
はじめに

 何事もうまく進んでいる状態が正常な状態で、その状態から逸脱すると異常となる。化学に関しては毎年どこかで工場の爆発や火災のニュースが聞かれ、これらの事故はまさしく異常の極致と言える。なぜそのような事故が起こったのか。そして、その原因はいったい何であったのか。化学の事故原因は衆目にはわかりにくいところがある。

 建設や機械等に関する事故においては、形あるものが壊れることや、本来のあるべき物性値(設計値)が実現できなくなることから事故が引き起こされることが多く、こちらは理解しやすい。

 そんな分かりにくい化学事故が起こる真の原因への理解を深め、事故を未然に防ぐ方法を極めたいとの要望がNPO兵庫技術士会からあり、その講演を依頼された。それを受けて2017年10月7日に講演を行った。今回お示ししているのは、ここで用いた講演資料である、

 私の化学との付き合いは長い。私の仕事は下のスライド2枚目にも示すように、品質の良い化学製品を合理的な製法で安価に安定して供給することである。その本来の仕事を遂行する一方で、情報を通して化学反応が関与する多くの事故事例に触れてきた。

 化学の合理的な製法に求められる条件はやはりPQCDSMである。PはProductivity生産性、QはQuality品質、CはCostコスト、DはDelivery納期、SはSafety安全、そしてMはMorale士気である。PQCDは利益の源泉である。これが優れていなければ競争力は望み得ない。また、今回の講演の主題であるS安全は企業の生産における大前提であり、このS安全の上にPQCDが意味あるものとなる。

 さらに、PQCDSはM士気により支えられる。社風と言ってもよいだろうか。企業活動の源は人の資質であり、そのやる気である。疑問に思ったことやわからない事柄はそれを解決するまでトコトン追究する。その過程で、組織の構成員の協働意識が強まり、S安全の確保、言い換えれば危険要因の洗い出しとその対処方法の確立、が確かなものとなる。

 今回の講演を通して、化学に関連する事故はそのすべてがそうであるとは言わないまでも、かなりの部分が事故が起こってしまってから「なるほど」というものが多いことが分かってもらえることと思う。後付けの説明は簡単であり説得力がある。そのことがなぜわからなかったのかと回りからは責められる。でも、当事者にすれば、そのことが分かっていれば当然先回りして手を打っていたであろう。わからなかった、あるいは思い至らなかったからこそ事故につながったわけである。

 大きな化学事故は非定常時に起こっていることが多い。非定常時における危険予知を確実にするだけでも、私たちの身の回りから化学事故は減らしていける。そのための方法および心構えを本資料から読み取ってもらいたい。

 なお、本資料においては、特に化学反応の暴走に力点を置いて説明をしている。それはこのカテゴリーに属する化学事故は、未然に防ぐことができると考えているからである。

 さらに、私の関心事として硝酸アンモニウムの関与する爆発事故がある。最近ではニトログリセリンを利用するダイナマイトは使われなくなり、硝酸アンモニウムを酸化主成分とする爆薬がそれにとってかわった。硝酸アンモニウムを酸化剤として使ったタカタのエアバッグ問題もあったので、話題として加えた。


用語解説

混触危険
 ある化合物とある化合物を混ぜ合わせると好ましからざる変化が起こること。たとえば、酸化剤と還元剤を混ぜると発熱したり発火・爆発したり、たとえば塩素系漂白剤と酸性洗剤を混ぜると塩素が発生したり、など。説明資料10では飛行船ヒンデンブルグ号の爆発事故について触れる。

HAZOP
 プラントの設計段階や運転段階での危険性を、系統的かつ網羅的に検討する手法。関係する専門家が複数人集まり、その危険性を洗い出し、対処法も議論する。説明資料21参照。

 



  
 
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