D06  金属の性質



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技術士試験の問題からは必要最小限の引用にとどめる。(問題)が記されている部分はその引用である。

問題および解答は日本技術士会のホームページより必要に応じて入手してください。

  技術士第一次試験の問題       



問題番号が赤字のものは、ボーナス問題


金属の密度、電気抵抗率、融点

H28年 Ⅰ-4-3   H22年 Ⅰ-4-3

同じ問題

H28年 Ⅰ-4-3 と H22年 Ⅰ-4-3


金属の熱伝導


H26年 Ⅰ-4-4   H24年 Ⅰ-4-4


同じ問題

H26年 Ⅰ-4-4  H24年 Ⅰ-4-4


金属材料の腐食

H25年 Ⅰ-4-4


金属材料の力学特性試験

H28年 Ⅰ-4-4


金属の変形等

H26年 Ⅰ-4-3   H23年 Ⅰ-4-4  H21年 Ⅰ-4-4


金属破壊

H24年 Ⅰ-4-3


金属中の自由電子

H20年 Ⅰ-4-4




金属の密度、電気抵抗率、融点



H28年 Ⅰ-4-3 

正答: ③

(解答)

知っているかどうかの問題。

直感的にはアルミニウムは軽い(比重2.7)。従って(ア)か(イ)。

銅は電気を良く通す。これは電気抵抗が小さいということ。銅線に変えてアルミニウム線を用いたら、などという話もある。
銅よりは電気が通りにくいが軽いということ。従って、(ウ)か(オ)。

融点はアルミニウムが低いことは知っての通り。銅文明が鉄文明よりも先に起こったのは、周知の通り。従って(ア)。

全てを満足する答えは③。

物性 アルミニウム
密度 7.87 8.94 2.70
電気抵抗率 nΩ・m 96.1 16.8 28.2
融点 ℃ 1538 1084 660
熱伝導率 W/(m・K) 80.4 401 237
熱伝導率は参考まで。
電気を通しやすい金属は熱も通しやすい。


(参考)

電気の流れは、金属イオン格子の中を伝導電子が移動することで生じている。熱も同様に伝達されているようだ。

金属の電気抵抗率(20℃)と熱伝導率(300K)はWikipediaに金属名を入れると調べることができる。
電気抵抗率(Wikipedia)には次の記述がある。

単位は、オームメートル(Ω・m)である。慣例的に Ω・cm もよく使われる。自由電子の数密度が大きく影響する。自由電子の数が多ければ多いほど電気抵抗率は低くなり。少なければ少ないほど電気抵抗率は高くなる。自由電子の数が限りなく 0(ゼロ)であれば、それは絶縁体である。
電気抵抗率の逆数を電気伝導率(導電率)と呼ぶ。

下表は、電気と熱を通しやすい金属から順に並べている。電気抵抗率の単位はnΩ・mで、電気伝導率の単位はその反対の1/(nΩ・m)となる。電気伝導率と熱伝導率の関係をグラフ化すると、きれいな直線関係となった。





金属の熱伝導



H26年 Ⅰ-4-4

正答: ④ 

(解答)

断熱材を想像してください。熱の伝わり方は、伝熱、対流、放射です。有効伝熱面積が小さくなります。
従って、④が誤りでした。

ゆっくりと読めば、なるほどと理解できる。

高純度の金属においては、熱伝導は、格子振動(フォノン)よりも自由電子によってより効率的に行われる。

不純物で合金化された金属では、高純度の金属よりも熱伝導率は低下する。

ガラスや非晶質のセラミックスは、結晶質のセラミックスよりも低い熱伝導率を示す。

セラミックス材料の気穴率を増大させると、熱伝導率は減少する。

高分子の熱伝導率は結晶化率に依存し、結晶率が高く規則的な構造を持つ高分子は、同じ物質の非晶質のものより大きい熱伝導率を示す。



金属材料の腐食



H25年 Ⅰ-4-4

正答: ③

(解答)

金属材料の腐食には、空気や反応生成ガス、燃焼ガスなどのガス中で生じる乾食と、水などの液体中で生じる湿食がある。

金属の中には、イオン化傾向から判断されるよりはるかに化学的安定性の高いものがあるが、それらの金属が化学的に安定な理由は、酸化物が金属の表面に強固に結合して不動態被膜を形成しやすいからである。

「一般に、ステンレス鋼は表面に強固な不動態膜を形成するので、炭素鋼よりも海水中の用途に適している。」は誤り。下の(参考)を見てください。

応力腐食割れとは、腐食作用と引っ張り応力の共同作用で、引っ張り強さ以下の応力で材料が割れてしまう現象である。

水素脆化とは、原子上の水素が金属内に入り拡散して、格子欠陥など特異な場所に集まり、金属を脆くする現象である。


(参考)

台所のステンレス流し台が、コーナー下にたまった食塩水で腐食した、などという話も聞かれます。


夢通信(衣川製鎖工業)



ステンレス鋼(Wikipedia)

ステンレス鋼の防銹性は、表面の不動態皮膜に依存するため、これが還元により破壊される要因に注意を要する。

オーステナイト系ステンレス鋼は硫化水素塩化水素などの塩化物イオンを含む高温高圧環境に曝されると、水素脆化による応力腐食割れを起こすことがある[2]

ステンレス鋼は純鉄に比べはるかに酸化されにくい(電位が高いという)ので、他の鋼や異種金属と接続すると電食を起こす。ステンレスの流し台に空きヘアピンを置くと極端に錆びるのはこのせいである。電気温水器はステンレス製であるから、鉄管で接続すると約10年で鉄管が破裂する。

ステンレス鋼においても他の金属と同様、錆は錆を呼ぶ。錆は不動態皮膜に比べて遥に不安定であるため、水道などに含まれる鉄錆が定着することが要因となって、錆が進行する(もらい錆)。

オーステナイトとフェライトの二相組織を持つ二相ステンレス鋼では強い耐食性を持つが、400 ℃以上の環境では脆化を起こすことがあり、使用環境の温度には注意が求められる[1]



金属材料の力学特性試験

H28年 Ⅰ-4-4 

正答: ② 

(解答)

材料の弾塑性挙動を、一軸引張試験機を用いて測定したとき、試験機から一次的に計測できるものは加重と変位である。

加重を変形前の試験片並行部の断面積で除することで公称応力が得られ、変位を変形前の試験片並行部の長さで除することで公称ひずみが得られる。

公称応力公称ひずみ曲線において、試験開始の初期に現れる直線領域を弾性変形領域と呼ぶ。


(参考)

図は材料力学の基礎を学ぶ(機械設計技術者の基礎知識)より

引張り試験(鉄鋼など) 安全率の考え方 材料によりそれぞれ



金属の変形等



H26年 Ⅰ-4-3

正答: ⑤

(解答)

金属が比較的小さい引張応力を受ける場合、応力(σ)とひずみ(ε)は次の式で表されるように比例関係にある。

  σ=Eε

これはフックの法則として知られており、比例定数ヤング率と呼ぶ。

常温でのヤング率は、マグネシウムで45GPa、タングステンで407GPaである。

温度が高くなるとヤング率は小さくなる。



力を加えても変形しにくいものはヤング率が大きく、逆に、変形しやすいものはヤング率が小さい。ヤング率の単位は、力/面積であるから、圧力と同じPaである。

なお、

ヘンリーの法則は、溶解度が小さく、溶媒と反応しない気体を一定温度、一定体積の溶媒に溶解するとき、溶解する物質量はその気体の分圧に比例することで、「揮発性の溶質を含む希薄溶液が気相と平衡にあるときには、気相内の溶質の分圧pは溶液中の濃度cに比例する」[1]と定義される。

ポアソン比は引張方向に垂直なひずみと引張方向のひずみの比のことで、Δw/w=ν×ΔL/Lのνがポアソン比です。


(参考)

フックの法則(Wikipedia)

フックの法則(フックのほうそく、: Hooke's law)は、力学物理学における構成則の一種で、ばねの伸びと弾性限度以下の荷重は正比例するという近似的な法則である。フックの法則が近似として成り立つ物質を線形弾性体またはフック弾性体 (Hookean elastic material) と呼ぶ。

弾性体は、荷重を加えると変形を起こすが、除荷すると元の形へと戻る(即ち、物質中の分子や原子が初期の安定な釣り合い状態へと戻る)性質を持つ。こうした弾性体は多くの場合フックの法則に従う。

長さL(m)と断面積A(m2)を持つ弾性材料から出来た棒を線型なばねとみなした時、そのひずみε(単位なし)は引張応力σ(N/m2)に比例し、弾性係数と呼ばれる定数E(N/m2)に反比例する。よって

σ=Eε

または

   F/A=E×ΔL/L

である。


ヤング率(Wikipedia)

主な物質のヤング率

 
材料 ヤング率(E)
単位:GPa
出典
ゴム (小ひずみ) 0.01〜0.1 [2]
PTFE (テフロン) 0.5 [2]
ポリエチレン 0.4〜0.13 [3]
ポリプロピレン 1.5〜2 [2]
ポリアセタールコポリマー 2.75 [4]
ポリスチレン 3〜3.5 [2]
ポリカーボネート 2.3 [4]
ナイロン 1.2〜2.9 [3]
チーク 木材 13 [3]
高強度コンクリート (圧縮時) 30 [2]
マグネシウム合金 45 [5]
アルミニウム 70.3 [6]
アルミ合金 69〜76 [5]
ガラス 80.1 [6]
黄銅 103 [4]
チタン 107 [5]
 
材料 ヤング率(E)
単位:GPa
出典
129.8 [6]
鋳鉄 152.3 [6]
201〜216 [6]
16.1 [6]
78 [6]
82.7 [3]
亜鉛 48 [4]
ベリリウム 287 [2]
タングステン 345 [5]
モリブデン 324 [5]
炭化ケイ素 〜600 [7]
ジルコニア 〜250 [7]
酸化アルミニウム(アルミナ) 〜400 [7]
オスミウム 550 [2]
炭化タングステン 450〜650 [2]
 




H23年 Ⅰ-4-4 

正答: ④

(解答)

金属の塑性は自由電子が存在するために原子の移動が比較的容易で、また、移動後も結合が切れないことによるものである。

結晶粒径が小さくなるほど、金属の降伏応力は大きくなる。

多くの金属は室温下では変形が進むにつれて格子欠陥が増加し、加工硬化する。

疲労破壊とは、繰り返し負荷によって引き起こされる破壊のことである。



参考)

加工硬化(Wikipedia)

加工硬化とは、金属応力を与えると塑性変形によって硬さが増す現象。ひずみ硬化とも呼ばれる。金属応力を与えると結晶面に沿ってすべりが生じるが(塑性変形)、このすべりは結晶格子を構成する原子の配列に対し一様にズレるのではなく、歪みすなわち、転位を生み出す[1]。転位は順次に結晶格子内を移動していくが、加工硬化を起こし易い金属あるいは合金では、加工を繰り返すことで転位密度が高まり、転位は解放されずに次第に蓄積して絡み合い、そのすべり面に対しての抵抗が徐々に増してくる。



H21年 Ⅰ-4-4

正答: ④ 

(解答)

多くの金属は室温下では変形が進むにつれて格子欠陥が増加し、加工硬化する。

加工硬化した金属を加熱すると、増加した格子欠陥が減少し、加工する前の強度に近づく。

増加した格子欠陥の減少を目的とした熱処理を焼きなましという。

一定の応力あるいは荷重のもとで、時間とともに塑性変形が進行する現象をクリープとよぶ。



(参考)

格子欠陥(Wikipedia)

格子欠陥(こうしけっかん, Lattice Defect)とは、結晶において空間的な繰り返しパターンに従わない要素である。格子欠陥は大別すると「不純物」と「原子配列の乱れ」があり、後者だけを格子欠陥と呼ぶときがある。狭い意味では特に格子空孔(後述)を指すこともある。伝導電子正孔も広い意味では格子欠陥に含まれる。


焼きなまし(Wikipedia)

焼なまし(やきなまし、英語: annealing)、焼鈍し焼き鈍し焼鈍(しょうどん)、アニーリングとは、加工硬化による内部のひずみを取り除き、組織を軟化させ、展延性を向上させる熱処理である[1]

クリープ(Wikipedia)

クリープ(creep)は、物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象。主に高温環境下における材料の変形を説明するために用いられる。



金属の破壊



H24年 Ⅰ-4-3 

正答: ②

(解答)

結晶粒径が小さくなるほど、金属の降伏応力大きくなる。

原子聞の結合の強さから予想されるアルミナの理論強度は数十GPaに及ぶが、実際の焼結体の強度は欠陥の存在のため、それよりもはるかに小さい。

破壊力学の進歩のきっかけとなったリバティ船の沈没、ジェット旅客機コメット号の墜落は、それぞれ溶接部の脆性破壊、窓の角からの疲労破壊が原因とされている。


(参考)

リバティ船(Wikipedia)

リバティ船(リバティせん、liberty ship)は、第二次世界大戦の最中、アメリカ合衆国で大量に建造された規格型輸送船の総称である。戦時標準船(10,000 DWT)とも呼ばれる。

建造期間短縮のため、当時としては画期的な工法であるブロック工法溶接結合が採用され、1941年から1945年までの短期間のうちに2,710隻が急速建造された。脆性破壊についての知見不足による欠陥事故で200隻以上を喪失したが、そこから多くの技術的教訓が引き出された。

鋼板の低温脆性、溶接手法の不備、応力集中による破壊の進行が原因と解明された。以後の造船技術はこれを教訓として研究・改良が行われ、その後の溶接構造船体の普及に貢献した。第二次世界大戦後の船舶の船体接合手段では、溶接が完全に一般化している。


コメット連続墜落事故(Wikipedia)

1950年代中期、世界最初のジェット旅客機であるイギリスデ・ハビランド社製「コメット」Mk.Iに連続して発生した、構造上の欠陥による航空事故(空中爆発)の総称である。

事故原因の調査過程で、最先端の航空機であったコメット機に内在した、当時の航空工学および金属工学の分野で未知の領域にあった重大な欠陥が解明された。

この事故を契機に、故障の拡大を食い止めるフェイルセーフ思想が発展普及し、その後の航空機の安全性を著しく向上させ、かつ航空事故の科学的検証手法の雛形が構築された。航空分野に限らず、技術欠陥の防止や事故検証のあり方において、多くの貴重な教訓を残した重要な歴史的事件とされる。



金属中の自由電子



H20年 Ⅰ-4-4

正答: ② 

(解答)


金属中の原子の価電子の一部又はすべては、自由電子として本来一つの原子に所属するはずの電子がそれを離れて原子(陽イオン)間を動き回っている。

高温化では自由電子の運動が激しくなるので、金属の電気伝導率は高温になるほど低くなる。

金属光沢は、金属表面付近の自由電子、金属イオン、価電子などと光との相互作用によって生じる。

純粋な金属の熱伝導では、フォノンよりも自由電子による寄与分が支配的なので、ほとんどのセラミックスよりも純粋な金属の方が高い熱伝導率を示す。

金属の塑性は、自由電子が存在するために原子の移動が比較的容易で、また移動後も結合が切れないことによるものである。

(参考)

金属(Wikipedia)より

自由電子のふるまいによって、金属の熱伝導率電気伝導率は高くなり、しかも比例する(ヴィーデマン=フランツ則)。金属は温度が下がると電気伝導性が上がり、逆に温度が上がると伝導性は減少する[6]。これは温度の上昇に伴って伝導電子がより散乱されるためである[10]




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