世界終末時計は午前零時1分前

今世界のあちこちで、思いもよらぬ大きな爆発が頻発し、多くの建物と人命が失われて行っている。その爆発は核爆弾のように放射能を発することはなく、ただ熱の発生だけが検知されている。世界の科学者がその正体を突き止める努力をした結果、やはり今までに存在しなかった新型爆弾であると分かってきた。ただし、その爆弾の本当の正体は太陽からの光エネルギーを貯蔵し、必要に応じてそのエネルギーを解放できる物体であり、この物体をすでに私たちはエネルギー源として重宝して用いていることもわかってきた。

この太陽エネルギー保存のための物体がなぜこのような大きな破壊力を有するのか。いま、世界の科学者はこの解明に立ち向かっている。その一方で、世界の政治家はこのような惨事を防ぐための仕組みづくりと協定案作りに必死である。

まず、問題の技術がどのようなものかを本技術を発明した博士本人に解説してもらった。この技術に関する基本特許は次のものであるが、これによるとごく簡単な物質構成で光エネルギーを貯蔵でき、また貯蔵されたエネルギーは容易に取り出せるとある。さらに、博士は深刻な事態に陥っていることに対する今の心境も語ってくれた。


博士出願の特許明細書

1.発明の名称 光エネルギーの固定化およびそのエネルギーの解放方法

2.特許請求の範囲

請求項1
 3次元物体において、周辺部分から中心部分に向かうにつれて屈折率を連続的に大きくすることを特徴とする光吸収物体。

請求項2
 請求項1で示した物体に光を断続的あるいは連続的に吸収させることを特徴とする物体中への光エネルギーの貯蔵。

請求項3
 請求項2で示した光エネルギーを貯蔵した物体に外部よりエネルギーを加えて、その構成要素を分子のレベルまで破壊することにより、蓄積されたエネルギーを解放することを特徴とするエネルギーの取り出し。

請求項4
 請求項1の物体に請求項2の方法で光のエネルギーを吸収・保存し、請求項3の方法でその蓄積されたエネルギーを取り出して利用することを特徴とする、エネルギーの利用方法。

3.発明の詳細な説明

本発明は太陽光などに代表される電磁エネルギーを蓄積し、必要に応じてそのエネルギーを簡単に取り出し利用する方法に関する。光をコントロールする方法としては光通信技術がよく知られている。この技術では一定の波長をもった光をガラス製あるいはプラスチック製のファイバー中に通すことにより大容量の情報通信を可能にする。この技術の要点は、ファイバーの中心部分の屈折率を周辺部分より高くし、光をファイバー外に漏らさないところにある。

本発明者は、この光ファイバー技術を3次元物体、たとえば球に応用すると光を球中に閉じ込められるのではないかとひらめいた。一例として、周辺部分から中心部分へと連続的に屈折率が高くなるようなプラスチック製球体を製作し、そこにレンズで絞った太陽光を連続的に照射した。その後、この球体をカロリーメータ中で燃焼させたところ、光を吸収させていない球体と比較してより多くの熱量が観測でき、観察された過剰の熱量は吸収させた太陽光のエネルギーに匹敵することが明らかになった。

本発明の方法によると、光等の電磁エネルギーを吸収させた物体へのレーザー光線照射や物体燃焼により、蓄積されたエネルギーを簡単に回収・利用できる。


以上が特許の柱となる内容であるが、もう少し説明を加えておく。この特許は電磁波すべてに適用できるが、説明の簡単のために以降は光という語を用いる。

物体に吸収された光は物体の中を走り続けることになる。光には波の性質があり、多くの波が重なればいずれはその波形が平均化され、波としての性質を示さなくなる。この波としての性質をもたなくなった形で光のエネルギーが物体中に蓄えられることになる。このエネルギーがどのような形で物体中に蓄えられているかは、今後の研究を待つことになるが、物体をレーザー光や燃焼により破壊すると再びこの蓄えられたエネルギーが解放されてくることより、物体中に何らかの形でエネルギーが固定化されていることは間違いない。

さらに興味深いのは、私の実験において、蓄えられるエネルギーの上限がまだ不明なことである。照射した光をどこまでも吸収し、どこまで光エネルギーを吸収できるかまだその限界が確認できていない。したがって、私のこの発明の方法によれば、少ない資源(物体)中に大きなエネルギーを蓄え、必要な時にその蓄えたエネルギーを解放することができるので、エコの観点からも素晴らしい自然エネルギー循環システムを構築することができる。今後、何十代、何百代と続く私たちの子孫にとっても大きな恩恵となることは間違いない。

なお、私のこの発明においては物体を構成する材料としてプラスチック及び無機物を用いることができるが、エネルギー取り出し時の物体破壊の容易性から、プラスチック素材の利用が推奨される。

 

私がこのアイデアを思いついたのは、宇宙のダークエネルギー、ダークマターに関する研究をしていた時である。宇宙には私たちが知る物質は4%しかなく、残る74%はダークエネルギー、22%はダークマターと言われている。物質だけでは私たちの天の川銀河の運動は説明できない。すなわち、物質だけからできている宇宙であれば銀河の中心部近くにある星々は銀河の回転中心の周りを高速で周回し、銀河の中心から遠く離れた周辺部にある私たちの太陽系はゆっくりと周回するはずである。ところが、私たちの太陽系も銀河の中心部近くにある星々と同じ周回速度、毎秒240kmで銀河を回っている。これを説明するためには、銀河系に一様に広がる重力を持つ何か、ダークエネルギーとダークマターの存在を仮定しなければならなくなったわけである。ただし、この両者は現在のところまだ観測されていない。

天の川銀河の渦巻きの形を眺めていると、銀河系が形成された初期にはこのダークエネルギーやダークマターの銀河回転への影響は少なく、かつては銀河系の中心近くにいくほど星々の周回速度が速かったのではないかと感じさせられる。参考までに、私たちの太陽系での惑星の平均公転速度は、水星で秒速47km、地球で秒速30km、土星で秒速10kmと、惑星が太陽に近いほどその公転速度が速い。

さらに私は光の速度について考えてみた。光の速度とよく対比されるのは音の速度である。空気中での音速は秒速340mであるが、今ではその速度は分子の重さと直進するエネルギーを熱力学を用いて計算することにより簡単に求めることができる。この速度は分子の質量が大きいと遅く、小さいと速くなる。たとえば二酸化炭素(分子量44)では秒速258m、ヘリウム(分子量4)では秒速970mといった具合である。光(電磁波)は粒子と波の両方の性質を有することはよく知られている。光の持つエネルギーEはこの波の性質から求めることができ、振動数をν、プランク定数をhとして、E=hνである。一方、光子の質量はゼロであるので、音速の例から考えるとその真空中での速度は本来無限大であるべきである。ところが、その速度は現時点では秒速30万㎞と有限である。

アインシュタインは光速はどこで観測しても秒速30万㎞と一定であり、いかなるものもこの速度を超えることはできないとして相対性理論を構築した。その相対性理論はニュートンの古典物理学の欠陥を穴埋めし、さらに数々の検証に耐えて、現在ではオールマイティーな理論となっている。なぜ光速は有限なのか。かのアインシュタインもこのことに疑問を呈することはなかった。だが、どう考えても光速が有限であるということに私は納得がいかなかった。

光学によると物質中では光の速度は遅くなる。屈折率が大きな物質中では光の速度はより遅くなる。たとえば水(屈折率1.33)では光速は真空中の75%に、水晶(屈折率1.54)では65%となる。この屈折率の考え方よりヒントを得れば、宇宙空間、すなわち真空中における光速、秒速30万㎞、は真空中に存在する何らかの未知の物体が関与し、その速度が無限大から秒速30kmに引き下げられているのではないか。私にはそのように思えてしかたがなくなった。

突然に私の頭に「インフレーション」という文字が浮かんだ。宇宙創成初期における宇宙の急激な拡大である。アインシュタインが指摘したように空間中における物体の移動速度の上限は光速であるが、空間の拡張速度にはそのような制限はないとされる。空間が拡大するとはどういうことかが私にはよくわからないが、光が到達したところは空間であることは間違いない。すると、インフレーションにより空間が一挙に広がったわけであるが、これは言い方を変えると、インフレーションによる空間の拡大と同時に、拡大された空間の最先端部分にまで光子が到達したということである。現在でこそ光速は秒速30万㎞であるが、インフレーション当時には光の進路を遮るダークエネルギーやダークマターの存在はまだなく、おそらく光速は無限大に近かったのではなかろうか。インフレーションののちにビッグバンが起こり、空間には物体が満ちて光速は遅くなった。そう考えると、私にはすっきりしたものがあった。

私は光速が有限の値をとるようになった原因をダークエネルギーとダークマターに求めた。先の屈折率の話の延長線上である。光の進行を阻止する何か、物質(マター)的な何かがきっと銀河系の宇宙空間に潜んでいるに違いない。そこで思い至ったのが、光の波の干渉による波形の消失である。銀河系にある多くの星々から出た光が銀河系内部を周回する間にその波形を互いに打ち消しあい、やがては波の形がなくなる。波動としては観測されないが、そのエネルギーはなくなってしまったのではなく空間中に温存される。温存されたエネルギーはアインシュタインのE=mc2m=E/c2の質量を持つ。このエネルギーと質量がダークエネルギーとダークマターに相当するのではないかと。そう考えるとすべてが説明できる。そして、この光の波の打ち消しあいを地球上で実際に試し、この特許出願に至ったわけである。銀河系宇宙のエネルギーを小さなプラスチック球中に詰め込むという私の仮説は現実のものとなった。

 

特許出願から数年後に日本のある企業から声がかかった。その会社は大企業というわけではなかったが、プラスチックの造粒技術に秀で、特許の内容の物体を製造する能力があった。そこで早速に契約を結び、この物体の製造を開始した。最初に製造した製品は1品目のみで、直径10mmの球体として販売した。

この球体の効果が認められてくると、多くの会社がこの物体への光吸収装置を作り始めた。装置といっても、太陽の光を集光するのみであるので、レンズまたは凹面鏡があればよく、これらの装置は安価に市販されることになった。ただし、物体の直径が小さいからと言って、蓄えられる光エネルギーが少ないわけではない。特許のところでも説明したように、この物体にどれだけのエネルギーが蓄えられるか、その上限の確認にはいまだに至っていないということである。たとえどんなに大きな光エネルギーを物体が吸収していたとしても、吸収された光のエネルギーを重量の増加から決定することは難しい。

また、他の企業では光エネルギーを吸収させた物体を燃料として販売し始めた。このころになると、上でも述べた私が契約を結んでいるプラスチック加工会社も、それぞれの利用用途を考慮して直径1mmから50mmまでの種々の球状製品を取りそろえるようになった。

そうこうしているうちに、光エネルギーを吸収させた物体を販売する会社は数多くのクレームを受けるようになった。これは、製品規格に示されている量のエネルギーを含んでいなかったり、あるいはその逆に表示よりもはるかに多くのエネルギーを含んでいたりしたためである。エネルギーが少ない分には単純なクレームに終わるが、エネルギーが多すぎて燃焼炉等の破壊につながった場合にはその賠償金額は膨れ上がり、さらにケースによっては人命も失われ始めたために、この表示ミスは社会問題化し始めた。

製品化され販売されている物体にどれだけのエネルギーが吸収されているかを知る方法はない。先にも述べたが、エネルギーの増加量を重量では測れないからである。どれだけのエネルギーを持った光をどれだけの時間、物体に照射したかだけが製造データのすべてである。国は、販売目的で物体に光を吸収させるときには、製品1個ごとに製造記録を残すことを義務付けた。直径1mm球の製品の場合、その製造数は多く記録は煩雑にはなるが、これで一応この問題は解決を見た。

次に生じた問題は、エネルギー吸収工場における誤爆である。光を吸収させた製品を倉庫に貯蔵しているが、その中の1個にでもエネルギー放出が起こると、その後は連鎖爆発となる。国はこの事態を重くとらえ、同じ場所に保管できるエネルギーの総量を制限した。

さらに、物体運搬中のトラックが高速道路上で事故に巻き込まれて大爆発を起こすという惨事も起こった。光エネルギーを蓄えた物体の県境を越えての移動は禁止され、1回にトラックに積載可能な物体量にも制限が設けられた。

私の発明の方法は、その内容は高度であるにしても、その実施が非常に簡単であるので、私の特許の存在を無視して多くの国、多くの地域、そして多くの団体で本物体が作られ、光エネルギーを吸収させ、流通されるようになった。そこかしこに私の発明を利用した物体が売られている。当初は、それらを解体し、部分々々の屈折率を測定することにより、これらの物体が私の発明品であるとの訴えを起こしていたが、きりがないこと、また、この測定中にも爆発の危険性があることより、この検証作業は中止せざるを得なくなった。結果的に私の特許は金儲けということでは有効な特許とはならなかった。私の特許は事実上存在意義を失った。私の技術を企業化してくれたプラスチック加工会社も赤字転落し、廃業を余儀なくされた。

 

この製品の使われ方のほんの一例ではあるが、次のようなものがある。

バイオマス発電所においては、木質燃料に光エネルギーを蓄積した本物体を混ぜて使用することにより、発電費用を大幅に低減することに成功した。また同じく発電用途であるが、本物体を水中に分散させ、高温チャンバーへと導くと効率よく高温水蒸気を発生させることができ、この水蒸気を用いて発電することができた。固体ロケット燃料に本物体を練りこむことによりその推進性能は著しく向上した。ロケット自体が小型軽量化できるのでその分多くのペイロードを軌道上に運ぶことができるようになった。

本発明品は人類に大きな恩恵を与えるものと考えられたが、その一方で負の局面も見えてきた。世界のあちらこちらで事件が起こり始めた。ガソリンに径の小さい微物体を入れ、エマルジョンとして利用しようとした者がいた。発想は素晴らしかったのだが、ガソリンによりプラスチックが溶け、エネルギーが解放されたために、ガソリンタンク内で大爆発を起こす結果となった。また、大量に廃棄されたエネルギーを含有したままの物体が焼却炉に入ったとたんに大爆発を起こし、市の廃棄物行政を止めてしまう事故も各地で起こった。さらに悪いことには、テロリストたちはこの物体を爆薬として使い始めた。通常の火薬とこの物体を混合して用いると、その威力は著しく向上した。

今では、世界のあちらこちらで、まえぶれもなく多くの爆発が起こっている。本物体の小さな粒一つでも大きな爆発が起こる。悪意の第3者がテロを行おうと思ったらいとも簡単である。直径1mmの球などはどこにでも紛れ込ませることができる。例えば、店舗に並んでいる魚にこの微物体を混入させておけば、焼き魚の調理時に大爆発を起こすことができる。社会的不安が日一日と増しつつあり、パニックに近いものがある。

先月、ヨーロッパの複数の都市で核爆発級の大爆発が連続して起こった。建築物の多くは原子爆弾によると思えるくらいに大きな破壊を受け、多くの人々が亡くなった。そして今月も東南アジアと北アメリカで同様の大爆発が起こった。ただ、不思議なのは爆心地から100kmも離れた場所でも建物が破壊を受けていることである。現在、その爆発の首謀者と損害状況、そして爆発の威力がかくも大きな理由を国際機関が調査しているところである。

 

私は考えた。私の思いとは異なり、なぜいまこのような事態に陥っているのか。これはひとえに人間の愚かさの証明であるのかもしれない。

人類の歴史は旧約聖書とともに始まった。天地創造においてその第1日目に神は「光あれ」と言われ、天と地が創造された。第2日目から第5日目で神は天と地の環境を整えられ、そして第6日目に神はわれわれ人類の祖先であるアダムとエバを作られた。神の愛情は深く、アダムとエバのために楽園が用意され、彼らは永遠の生命を得てなに不自由なくそこに住むことになった。

ただ、神はアダムとエバに対して守るべきルールをただ一つだけ告げられた。この楽園にある善悪を知る知識の実を食べてはいけないと。神は食べていけない理由は言わなかった。神の言いつけに背いた時から人類の苦難は始まることになる。その苦難の源の根本をなすものは人間の好奇心、未知への探求心であり、今の地球上の人々が持ち続けている人間の本質そのものである。このアダムとエバのこの知識の実事件は、人間に探求心があるゆえに苦難に陥ることが証明された人類史上はじめての事例となった。

人類はありとあらゆる可能性を探求し、不可能と思える事柄を次々と成し遂げてきた。その成果の積み重ねが現在へと続き、一時的にではあるが人類はこの地上にも楽園を創造することに成功した。しかしながら、ご先祖であるアダムとエバが、善悪を知る知識の実を食べて楽園追放となったにもかかわらず、その子孫である私たち人類は善に基づく完全な世界をこの地上に創造することには成功していない。人類は賢くならなければならない。どんなに優れた道具であっても賢く使いこなさなくては人を幸せにはしない。いま世界各地で起こっている想像すらできない大惨事を目の前にして、私も自分の至らなさに心の痛みを感じているところである。

 

私は昨夜夢を見た。夢の中の神様は次のように仰せになった。

 お前は神になろうとしたのか。「光あれ」と言えるのは神である私だけである。それも天地創造という大仕事をするときに限られている。それをお前は人間の分際で、こともあろうに地上のあちらこちらで「光あれ」と言った。その瞬間に宇宙創成時のインフレーションと同じく、解放されたエネルギーに匹敵する空間のインフレーションが起こることになった。人間社会を構成している空間は、爆発地点の周囲でわずかながらではあるが拡張を起こし、その結果として大きなひずみを生じた。そのひずみが多くの建物を破壊し、多くの人命を奪った。

 人間はアダムとエバの時代から不完全な存在であるということを知らなければならない。そのことがわかるまでは、神である私が人類を見守り、必要に応じて人間社会に介入しなければならない。過去にもモーセに十戒を与え、またわが子イエス・キリストをこの世に遣わしたこともある。それでもかたくなな人類は変わらなかった。今回のこの事態は非常に由々しき事態であるから、きっと何らかの形で私は人類に戒めを与えるであろう。

 ただ一つだけ言っておく。今回の出来事の原因は確かにお前が作ったことには間違いはないが、それは人間の宿命、その不完全さによるものである。決してお前が悪いのではない。そのこと、すなわち人間は不完全な存在であるということが地上の多くの者に理解できるようになれば、人類は地上に真の楽園を築くことができるであろう。

 

朝の目覚めはさわやかであった。そして、夢のお告げにより今回の大爆発の原因を知り、破壊の規模が非常に大きくなる理由が空間の瞬間的な微拡張によるものであると知った。私は今起こっている災禍を防止するために国際機関への最大限の協力をしようとの決意を固くした。

 

ここから先は、私の心の声であるので、オフレコにしていただきたい。

 

国際機関への協力は誓ったが、それと同時に、神様から教えられた空間拡張という事実から、発明の物体をトンネル工事に利用すると簡単に、しかも短期間にトンネルが完成するとひらめいた。爆発量をコントロールすることにより空間拡張の範囲を限定することができる。拡張した空間中に存在する岩石量は元の量のままであるから、結果として岩石間には程よい隙間が生じ、岩石の取り出し作業が容易になる。また、この技術は鉱物資源の採取にも利用できるはずである。特許を今日中に書き上げて、今度こそは一儲けしよう。

 

 以上で博士へのインタビューは終了し、リポーターは丁重に博士にお礼を申し述べた。さらに一言付け加えることも忘れなかった。

 「人類はアダムとエバの苦難の時代と比べると物質的には裕福になったと思いますが、善とは何かを知っているにもかかわらず自分の利益を最優先する生き物なのですね」と。