399. 金星探査衛星「あかつき」の失敗原因はロケットエンジンの破壊? 「はやぶさ」のように生き返らないのでは

 2010年12月17日掲載  2014年 5月 5日再掲


JAXAから、金星探査衛星「あかつき」の失敗原因への言及(下記引用記事)がやっとのことで出てきたが、この記事の内容では、やはりすっきりとはしない。

失敗が起こった時には、想像を超える力が働き、機体が前につんのめる(科学的な記述とは思えないが)ように高速回転したと発表された。

探査衛星が何か(宇宙ゴミ?)にぶつかったのではないかとの情報も飛んだが、そのようなことが起こる確率は非常に小さなものである。金星の近くであるからゴミが多く存在するというのは憶測に過ぎない。地球の周りには多くの衛星が飛び交い、それらの衛星には宇宙ゴミが衝突した形跡は多々残っているものの、完全に破壊されるケースなどは今までにない。非常にまれな例としては、宇宙で衛星どうしがぶつかり、多くの宇宙ゴミ(デブリス)を作り出したという例はあるが。



さて、今回の報道であるが、エンジンそのものが脱落したのではとの発表である。さらに、エンジンの噴射口の大部分が脱落していると6年後の金星軌道への再投入に望みが出てくるとも言っている。


マイコミジャーナル(下に引用)によると、機体にはX軸に対して垂直に働く力により急な回転を始めている。これは、マイコミジャーナルに示される衛星図左側に取り付けられた軌道制御エンジンの下方、または上方に異常が起こったことを示している。X軸周りの回転方向はプラスとなっているので、軸に対して右回りか左回りか、その定義の仕方で、どちら側が壊れたかは推定できる。

筆者(私)はここであたかも原因の決め付けを行ってしまっているようにも見えるが、衛星投入の失敗を聞いた瞬間から、その状況に基づき原因を推定していた。しかし、なかなか情報が出てこないので、ヤキモキしていたところであるが、今回の YOMIURI ONLINE の報道をうけて、さらにモヤモヤが積もったわけである。

ロケットエンジン(Wikipedia)からエンジンの図を抜き出した。エンジンに送られた燃料と酸化剤は、燃焼室で反応して高温・高圧のガスとなる。このガスがエンジン出口の細い口(スロートという)を通って一方向へと噴出される。このガスの噴出により作用・反作用が生じ、推進力が生まれるというわけである。図の赤丸部分は筆者による。






さて、日経オンラインの記事によると、このエンジンはセラミック製であったとのことである。自動車エンジンでも冷却の必要がなく高温に耐えるということで、セラミック化の検討が多々なされてきた。しかしながら、所詮は焼き物である。焼き物の花瓶を想像してもらえればよい。高温・高圧に耐えられずに、その口の部分が壊れ、ロケットエンジンの横方向(噴射軸に対して垂直方向)へと飛び去ったに違いない(上のずでは赤丸で囲んだ部分が壊れる)。そうすると、衛星を横方向に回転させる力が働き、X軸を回る回転(トルク)が生じることになる。また、この瞬間にエンジン内の圧力が急激に低下し、推力そのものが失われる。これが結論であろう。

さらに、ロケットエンジンの命はスロート部分である。ここで、絞りをいれることにより、燃焼室での高温・高圧ガスを作ることが可能になるし、そのガスを高速で一方向へと吹き出すことも可能となる。噴射口の大部分が破損していると、燃料を燃やしてもガスが低圧のまま流れ出るだけであるので、推力は得られないことになる。今回の情報を総合的に解釈すると、「あかつき」はもはや「死に体」ということになる。もし、希望が残っているとすると、「あかつき」の構造の詳細は分からないが、姿勢制御ロケットが生きていれば、それを断続的に一方向に噴射することにより、金星軌道に投入できるチャンスがないかということである。しかし、姿勢制御エンジンがあったとしても、その推力は小さいとj考えられるので、その可能性は極めて小さいと考えられるのだが。




YOMIURI ONLINE 12月17日


「あかつき」エンジン噴射口が脱落の可能性

. 金星を回る軌道への投入に失敗した宇宙航空研究開発機構の探査機「あかつき」は、エンジンの噴射口が割れて大部分が脱落した可能性が新たに出てきた。


 燃料が正常に供給されずに異常燃焼が起き、噴射口が過熱して破損したと宇宙機構ではみている。噴射口の大部分が脱落していれば、進む力は低下するがまっすぐ進めるため、6年後の軌道投入に望みが出てくるという。
 宇宙機構の分析では、探査機はエンジン噴射から2分32秒後に姿勢を崩し、まっすぐ進む力も低下した。しかし直後に、その力を取り戻している。

 このデータをもとに専門家らは、まず高温燃焼でできた噴射口の亀裂からガスが噴き出して姿勢が崩れ、その亀裂がさらに進んで最終的に噴射口の大部分が脱落したと推定している。




日経ビジネスオンライン 12月10日

「あかつき」周回軌道投入失敗から見えてくる宇宙工学の受難
あえて“初物”のスラスターを搭載した理由

12月7日、日本の金星探査機「あかつき」が金星周回軌道投入に失敗した。5月21日に種子ーから打ち上げられたあかつきは、順調に飛行を続け、この日金星への最接近に合わせて、力500N (ニュートン)の軌道変更エンジンを720秒噴射し、金星周回軌道に入る予定だった。

午前8時49分に噴射を開始したあかつきは、直後の8時50分に地球からが金星の影から出てきたあかつきを地上局で捕捉するのに手間取った。きの軌道を測定したところ、金星周回軌道に入れなかったことを確認。

探査機からダウンロードしたデータから、噴射開始から約143秒で、あかつきの姿勢が乱れ、本来
720秒行うはずだった噴射が停止したことが判明した。姿勢の乱れは、5秒間で軌道上初期重量が500kgあ
る探査機が完全に1回転するという急激なものだった。

(中略)

ここでは500N スラスターが、世界初のセラミック製だったということを取り上げ、そうなった背景を見ていき
たい。「初物」は常にトラブルの覚悟がないと使えない。惑星周回軌道投入のためのスラスター噴射は、惑
星探査機にとってももっとも危険な動作だ。一発勝負でやり直しができない。そこにあえて初物のセラミック
製スラスターに使用した理由には、JA XA 宇宙科学研究所における、宇宙工学部門の苦境が関係してく
る。


(後略)




マイコミジャーナル 12月9日

金星探査機「あかつき」続報 - エンジン噴射中に1回転していたことが判明
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月8日、この日2回目となる記者会見を開催し、金星探査機「あかつき」について、午後になってから明らかになった新情報を公表した。新たに、軌道制御エンジン(OME)噴射後の姿勢情報が分かっており、これによって、探査機が5秒間で1回転するほど大きく姿勢を乱していたことが明らかになった。

同日午前に開催された記者会見の内容はこちら

同日20時半より開催された記者会見には、中村正人プロジェクトマネージャが出席。この姿勢情報について詳しく説明した。

「あかつき」ではすでに3軸制御が確立しており、午後からハイゲインアンテナ(HGA)の高速通信(32kbps)を使って、探査機のデータレコーダーからのダウンロードを開始した。この日取得できたデータ量は28MB。まずは、セーフホールドモードへの移行がいつ起きたのかを調べるために、推進系の調査に着手した。

グラフは、横軸が時間、縦軸が目標姿勢と実際の姿勢の差を表している。線が3本あるのは、それぞれX/Y/Z軸周りの角度である。OME噴射(8時49分)直後に少し乱れた姿勢は、大体1分30秒後くらいには収束。その後しばらくは安定していたが、2分23秒後にいきなり姿勢を崩したことが見て取れる。


OME噴射後の姿勢情報
あかつきのX/Y/Z軸






特に大きく乱れたのはX軸周りの姿勢。エンジンを噴射したまま、ほとんど5秒間で1回転してしまっている。X軸というのは、ローゲインアンテナ(LGA、低利得アンテナ)が付いている面を貫いている軸で、X軸周りに1回転というのは、ちょうどLGAをコマの軸にして回ったような形になる。もちろん、これは通常ではあり得ないことで、この直後にセーフホールドモードに入ったと見られている。

この「2分23秒後」に何が起きたのかは、現時点では分かっていない。可能性としては、OMEのトラブル(破損など)も考えられるが、中村プロマネは「今後の詳細な解析を待ちたい」として原因の断定は避けた。

(後略)





(追伸)JAXAより12月27日に失敗原因に関する情報が示されたので示しておく。


第24 号科学衛星(PLANET-C)「あかつき」の金星周回軌道への投入失敗に係る原因究明及び今後の対策について

推薬とは燃料(ヒドラジン;N2H4)と酸化剤(MON3; N2O4 に3%のNO を添加したもの)を合わせた総称である。




「あかつき」の金星周回軌道への投入失敗に係る原因究明及び今後の対策について(その2)

問題は逆止弁の異常




エンジンが破損している可能性についても実際に異常燃焼試験を行って確認することになっているそうです。






文書リストに戻る ホームに戻る