380. 未知との遭遇 そのとき人々は? 連鎖的に固まっていく水 恐怖のポリウォーターとの対峙

 2010年10月 2日掲載  2014年 5月 5日再掲


約半世紀前の話である。当時の大科学者が異常な性質を示す水を発見したと発表した。科学における大発見である。

名だたる科学者が我も我もと追試し、その結果、この発見は本当らしいとの話となる。そして、その現象を説明するための理論が考えられたりするが、この水があまりにも異常な性質を持ち、また、水同士は水素結合の手でお互いに結びつくことが知られているので、そのうちに多くの科学者が実験室で得られた水が自然界に放たれると、自然界の水が連鎖的に固まっていき、大変な事態を招くのではないかと危惧するようになった。パニックである。

記憶に新しいところでは、遺伝子組み換えによって新たに生み出された病原性を持つ微生物(最近)が大気に誤って放出されると、その最近の自己増殖により人類が滅びるのではないかと心配されたのと同じことがすでに40年前に起こっていたのである。

多くの科学者の名声と名誉をかけて議論が戦わされたこの事件、結論としては実験器具の汚れが水中に取り込まれた結果、水の物性測定に異常をきたしたということで幕を閉じた。非常に最近の出来事ながら、こんな単純な理由で社会をも巻き込んだ大騒ぎになるという好例である。




ポリウォーター事件(Wikipedia)

ポリウォーター(polywater、重合水)もしくは異常水(anomalous water)は、1966年にソ連のボリス・デリャーギンが発見したとする、水の特殊な状態。その報告から存在が否定されるまでに起きた一連の学会の熱狂と社会現象はポリウォーター事件として知られる。

概要
水をガラスの毛細管に通すことによって、通常の水とは異なる状態に変化するとされた。こうして変化した水は、通常の水と比較して、粘性は 15倍、熱膨張率は 1.4倍となり、融点は −30~−15 ℃、沸点は 150~400 ℃ であると報告された。しかし、この状態の水を得るには水をガラス管を通す以外に方法がなく、しかも数ミリグラム程度しか得られないという問題点があった。

この報告は世界中に衝撃を与え、支持的・批判的含め様々な立場の研究者らによって追試が行われることになった。その結果から、通常の水よりも強い水素結合の存在が示唆され、多くの水分子が重合しているのではないかと考えられたことから、ポリウォーターの名前が与えられた。

一部研究者が、ポリウォーターは加熱処理などによって固体状にすることができる可能性を示唆したことから、石油からプラスチックを加工するように、水を原料とした高分子材料の産業が開花するのではないかとも言われた。

また、理論計算からポリウォーターは通常の水より安定した状態であると導かれたため、ひとたびポリウォーターが自然界に放たれると凝縮核として作用し、地球上の水を全てポリウォーターに変化させてしまうのではないかとも危惧された。

しかし、以下のような理由から、次第にポリウォーターの存在は否定的となった。

水が石英に触れる機会は自然界中にあふれているのに、自然界でポリウォーターが発見されていない。
分析の結果、ポリウォーターには不純物が含まれている。
重水から作られたポリウォーターと軽水から作られたポリウォーターにスペクトルの違いがない。
メタノールや酢酸など、水以外の物質をガラス管に通しても同様の変化を見せる。
1973年にデリャーギン自身が、この変化は水分子の結合の変化ではなく、ガラス管を通すときに水に不純物が溶け込んだためであると結論し、ポリウォーターの存在は完全に否定された。

その後一時的に、科学界から水の研究者が減るという現象を生んだ。水の研究をしているとうさん臭く見られてしまうのではないかといった恐れが研究者達に生じたためである。




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