333. 火星に向けた過酷な550日間密閉生活実験がロシアで始まる 550m3の模擬宇宙船空間に6人

 2010年 6月 4日掲載  2014年 5月 5日再掲


550m3といえば、たとえば10m×10m×5.5mの空間である。少し大きめの部屋に6人の男たちが550日間の共同生活をすることになる。模擬宇宙船であるから、外部からの情報以外は、完全に遮断されるとの前提であろう。

かつて、米国においてバイオスフェア実験が行われた。こちらは広い温室に6名の男女が長期間滞在するというものであった。プロジェクト名が示すように、地球のリサイクル系の中における人間が主題であったので、リサイクル系がうまく機能せずこちらの実験は2年で中断せざるを得なくなった。

今回のロシアの実験は、バイオスフェア実験と比較するとリサイクルに関しては、水のリサイクル等、すでに完成しているもののみを利用するので、成功の確率は高いものと考えられる。

問題となるのは心理的側面であろう。日々、こなしていくべき意味のある仕事があり、それを積み重ねで550日を達成することが必要となる。



読売新聞 6月3日

密閉520日間、火星飛行想定し模擬実験

 往復520日の火星飛行を想定した隔離実験「火星500」が3日、モスクワ市内の医学生物学問題研究所で始まった。

 6人の男性被験者は「冒険旅行へ出発だ」と、窓のない容積約550立方メートルの模擬宇宙船に乗り込んだ。

 実験は、長期隔離が精神や身体に及ぼす影響を調べる目的。リーダーのアレクセイ・シチョフさん(38)は、「家族と離れるのはつらい。でも開拓者は、常にこういう運命」と記者会見で話した。イタリア人のディエゴ・ウルビナさん(27)は、コロンビアの作家ガルシア・マルケスの全著作を電子書籍で持ち込み、退屈対策に万全を期した。



バイオスフィア2(Wikipedia)

 バイオスフィア2(Biosphere2)とは、アメリカ合衆国アリゾナ州オラクルに建設された、巨大な密閉空間の中の人工生態系である。名称は『第2の生物圏』の意味であり、建設の目的は人類が宇宙空間に移住する場合、閉鎖された狭い生態系で果たして生存することが出来るのか検証することと、"バイオスフィア"すなわち地球の環境問題について研究することであった。 なお、バイオスフェア2と記載される場合もある。


実験は2年交替で科学者8名が閉鎖空間に滞在し、100年間継続される予定であったが、実際には最初の2年間で途切れてしまった。第1回は1991年9月26日から1993年9月26日まで、その後第2回は1994年に6ヶ月間一時的に行われた。


バイオスフィア2内部からの風景
 第1回のミッションで実験生活を行ったのは8名である。実験が継続不可能になった背景には次のような問題がある。

酸素不足 ― 事前の計算では大気は一定の比率で安定するはずであったが、土壌中の微生物の働きなどが影響して酸素が不足状態に陥った。また日照が不足すれば、当然光合成で酸素を生産することが出来ず、不足状態は慢性的なものになった。

二酸化炭素不足 ― 酸素が不足している状態では二酸化炭素が増え、光合成が行われるはずであったが、二酸化炭素の一部が建物のコンクリートに吸収されていることが途中で判明した。一時的に炭素過多な状況になった場合、植物を刈り入れ乾燥させることで炭素を固定し、その後必要なときにそれを使う方法が用いられていたが、コンクリートに吸収された二酸化炭素は用いるすべがなかった。

食糧不足 ― 多くの植物は、以上述べてきた大気の自律調整の難航や日照不足から、予想していたほど生長しなかった。バナナやサツマイモなどが栽培されたものの、家畜の多くは死に、結果として、バイオスフィア2の食生活は後半に至るほどに悲惨なものとなった。コーヒーなどの嗜好品がごく稀に収穫できたときには、科学者たちは狂喜したという。

心理学的側面 ― これはしばしば宇宙空間でも問題になることであるが、外界との交流を一切断ち切られた空間では情緒が不安定になり、対立構図が生まれる。食の不満足や、安全面での不安がそれをさらに強めたといえる。

150億円を地元の資産家らが投じて建設されたバイオスフィア2が8人の人間を短期間しか生存させることができなかったことは、いかに生態系を模倣することが難しいかを物語っている。例えば熱帯雨林の木はすぐに枯れてしまったが、これはバイオスフィア2の中に風がなかったため、木が自らを支えようと幹を強くすることを怠るようになったためだという。このように生態系は様々な複雑な要素が微妙なバランスを保って維持されているのである




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