325. 弁理士の仕事の本質は何か? 顧客の権利範囲を広くとり、それを守り抜くこと。それこそが本質

 2010年 5月23日掲載  2014年 5月 5日再掲


弁理士とは何をする人か? これについてはしばしば考えることがある。

弁理士は特許の専門家である。そして、非常に多くの分野の特許を扱わなければならない。といっても、そんなに広い範囲の技術分野を一つの特許事務所、あるいは一人の弁理士でカバーできるわけはないので、当然のことながら、弁理士は得意分野を持つことになる。

弁理士は、もとは弁護士からわかれたものである。その流れからすると、法律的な事柄、たとえば特許の係争(争い事)に対する対処とか、もう少し手前で、係争が起こらないように整えた特許申請をするとかが本来の仕事であろう。つまり、特許申請に当たっては、依頼者の権利範囲をできるだけ広くするような方策を講じることも必要である。

さて、企業勤めの私も年間に何件かは特許出願を義務付けられている。自分で発明した発明であるから、その発明について一番よく知っているのは私自身であり、その発明への過程においてどのような前例があるか、すなわちこの技術分野について一番熟知しているのは私である。

特許出願時には見直しの時間も入れて1~2日で特許原稿を書き上げ、社内の知的財産部にその原稿を提出することになる。知的財産部では約1週間をかけて内容を確認する。ここまでは良い。

ついで、知的財産部に預けられたすべての特許は複数の特許事務所の中から本件に最適と考えられる特許事務所に送られ、そこで特許庁への出願書類として整えられる。特許事務所への依頼は、発明者である私が知的財産部の方と一緒に該特許事務所を訪問し、担当の方にその特許のポイントを関係する前例も含めて説明し、理解をいただく形でおこなう。このときに、担当者の方とのあいだで疑問点や不足する資料の打ち合わせも併せて行い、足らずの資料がある場合には、調査の後に送付することになる。

特許事務所での処理期間は平均で2ヵ月。長いもので6ヵ月に達する。発明を思いついたら一日でも早く出願しましょう、という掛け声がどこかにあったが、これとは裏腹にとんでもない話となる。

特許事務所から出願直前原稿が確認用に送られてくるが、時としてこの確認に1週間を要することがある。1週間、特許の最終原稿を眺めていても、原稿に何が書いてあるか発明者の私ですら理解できず、特許事務所に再度書き直しをお願いするケースがまま生じる。


ここで、最初の問題提起に至るわけである。弁理士とは何をする人か?

弁理士が技術の勉強をし、自分の理解のままに特許を書きなおそうとしたときに悲劇が起こる。弁理士としての生産性が落ちる。意味のない特許を作り上げ、審査請求しても通らなくなる。私が会社にお願いしているのは「私の原稿のままで特許を出願してください。」ということである。知的財産部もこれには責任が持てないので、特許事務所を通すことになる。そして、事件が発生する。

弁理士業務は下に示している通りである。決して「代筆屋」ではない。技術の知識は発明者に求め、権利範囲を広くできるように弁理士としてのノウハウをその特許に入れ込めれば、それで十分ではないかと考えるのだが。




弁理士(日本)(Wikipedia)

特許事務所勤務の弁理士
弁理士の大部分(85%前後)は特許事務所又は法律事務所で働いている。特許事務所勤務弁理士の主な業務は下記の通りである。

主業務
 企業の求めに応じて出願書類を作成する(主業務)。
 出願後に特許庁から通知される拒絶理由通知に応答する(中間処理)。
 存続中の権利の年金処理。
 特許、実用新案、意匠、商標に関する相談を受ける。

その他の業務
 成立した特許、実用新案の技術的範囲、意匠、商標の権利範囲について、第三者の観点から鑑定を行う。
 主に特許・実用新案のライセンス交渉を代理する。意匠あるいは商標は、その専門に特化した弁理士や特許事務所が行うことが多い。
 拒絶査定不服審判、無効審判の代理を行う。
 特許権・実用新案権・意匠権・商標権に関する訴訟の補佐人・訴訟代理人。




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