309. 良く言われる この1万円は使わなければただの1万円 使えば巡り巡って景気の底上げをする  は本当か?

 2010年 5月13日掲載  2014年 5月 5日再掲


下に示したNo.11のレビューは、私のブログで紹介した「日本経済の真実 ある日、この国は破産します」に対するアマゾン書店中に掲載された書評です。一番下の書籍の絵をクリックすると見ることができます。

このレビューは理路整然と書いてありますので、一見そうかなと思ってしまうところがあります。

製品を生産するときには、材料から部品、部品から製品へと組み上げられていくにつれ、その形も変わりますし、各工程で労働力もつぎ込まれていきます。生産工程の進行とともに付加価値が蓄積されていく様子がよく理解できます。このモノづくりが国内で行われた時には、付加価値、すなわちGDPの源泉は日本国内にとどまることになります。

一方、企業が海外に進出し、海外でモノづくりをしたときには、この付加価値は海外で生み出されることになりますので、生じた付加価値は進出先国GDPの源泉となります。これもGDPの定義からして明らかです。

さて、難しいのがサービスにおける付加価値です。いま、ある製品があり、この製品が工場から卸、そして小売りへと流れながら流通コストを吸収していく場合、製品は流通コスト分の付加価値を加えながら流れていくことになります。この付加価値額が正当な額であれば「真正の付加価値」と呼ぶことができますので、なんら問題はないと考えます。

もし、レビューに記されているように所得がすぐに消費され、人から人へと渡っていく場合には、確かに好景気と呼べる状況となります。日本でも土地の値段がどんどん上がっていったバブルの時代がありましたが、これは金余り現象の中、土地の将来価格が高くなると見越しての投資でした。土地の値段が本来あるべき価格を超えて大幅に上昇し、それがある日、泡(バブル)が弾けるように消えてなくなったわけです。

「真正の付加価値」に対して、このような「見せかけの付加価値」にはいずれ清算されるべき時期が来て、国民は本来の付加価値、日本の実力・国力を知ることになるのです。「21世紀は日本の時代」などと煽てられ、舞い上がってしまったつけには大きなものがあります。

さて、似たような話は、昔のテレビ番組「ひょっこりひょうたん島」にもありました。ドンガバチョやサンデー先生、博士や海賊が出てくる人形劇ですが、私の記憶ではかなり後の方でこの島に辿り着いた海賊が繰り広げた話です。

海賊2人がある一つの品物を販売して、儲けようと考えました。販売会場への途中、彼らに良い考えがひらめきました。それは、2人で所有している品物を海賊のひとりAがお金を支払うことにより所有権を得ます。つぎに海賊Bはいま受け取った金額で海賊Aより品物を買い取ります。さらに、海賊Aはいま受け取った金額で海賊Bより再度品物を買い取ります。この手続きを繰り返すことにより見かけ上は大きなお金が動いていくことになります。しばらくの間、海賊たちは大きな儲けに酔いしれこれを続けていましたが、はたと手許を見たとき、現金の額に変化がないことに気づきました。

これと同じ行為が、2つの会社間で行われると典型的な粉飾決算(循環取引)です。お互いに発注し合い、売上額は大きくなり見かけは活発な商いがなされているように見えますが、それは見せかけだけのものです。循環取引の具体例は以前に私のブログでも紹介しました。


景気循環の一側面とはこんなものかもしれません。価値があると思えば価格は上がり、価値がないと思えば価格は下がります。すべては人の心のなせる業です。そして、いずれ景気調整という名のもとに、そのツケを払っていくことになります。

さて、1万円ですが、使えば確かに景気の押し上げ効果はあるでしょう。地域振興券などがその良い例です。しかし、その1万円がどの程度の働きをするかは難しい問題です。人の心が大きく関与します。それが景気循環の生じる一因でもあるのでしょう。




No.11のレビュー

139 人中、106人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
正真正銘のトンでも本, 2010/5/4
By 常識知り太郎 (千葉県習志野市) - レビューをすべて見る

レビュー対象商品: 日本経済の真実―ある日、この国は破産します (単行本)

経済を語る前に簿記の勉強をなさったほうがよろしいのではないでしょうか?

本文の中に、「ジーンズ10万本隣国に輸出して1億円を得るとGDPは1億円となり国民所得が1億円になるが、その1億円を飲み食いに消費してしまうと翌年もジーンズは10万本しか作れないからGDPは増えない。消費の中から我慢して設備投資に回し生産できるジーンズの本数を増やさなければGDPは増えない。」とあります。

一見正しいように見えるかも知れませんが、完全な誤りです。輸出で稼いだ1億円を飲み食いに国内で消費したのであれば、国内の誰かの1億円の所得になりGDPは2億円になり、飲み食いを提供した人が1億円国内消費すれば誰かの所得になりGDPは3億円になります。翌年ジーンの輸出がまったくなくても、前年輸出で稼いだ1億円は国内で消えてなくなる訳ではありませんから、その1億円が4回国内消費されればGDPは4億円となり33%成長となります。この回転数が多いことを好景気といい、景気は貯蓄とは何の関係もありません。

個人でも法人でも決算書には損益計算書と貸借対照表があり、GDPとは国の損益計算書の所得にあたります。GDPが増えないことを国の貸借対照表の一項目の政府の借入金や国民の貯蓄だけを取り上げ論じていること矛盾を感じえません。国の貯蓄といっても個人のもの法人のもの政府のものもあり、預けられた銀行にとっては貯蓄ではなく借入金になります。複式簿記で分析するべき経済問題を、家計簿の様な単式簿記で論じているキワモノの本です。

辛坊さんもサラリーマン辞めてフリーのアナウンサーになって青色申告決算書でもご自分で作成なさってみてはいかがですか?非効率的と馬鹿にされている公共事業を請け負っている個人事業主でも青色申告決算書を自分で作成しているものなら馬鹿馬鹿しくて最後まで読む気もしないでしょう。




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