266. 遺伝子ドーピング? バンクーバー冬季オリンピックの開会式では不正を行わないとの宣誓がなされたが

 2010年 2月13日掲載  2014年 4月28日再掲


Googleで”遺伝子ドーピング”で検索すると94100件のヒットがある。これにスポーツを掛け合わせても、そのヒット数は9350件と非常に多い。

Wikipediaのドーピングの項目に、ドーピング検査の項があるが、ここでも次のようにドーピングの事実を発見することは難しいと記されている。


現在のドーピング検査としては、競技後、上位に入賞した選手(あるいは出場の全選手)から尿や血液を採取して検査されるが、近年の遺伝子治療技術の発展により、新たな種類のドーピング「遺伝子ドーピング」につながるのではないかとの懸念が広がりつつある。この新種のドーピングは理論上、検出が非常に困難であり、長年にわたって不正利用が続けられる可能性がある。世界アンチ・ドーピング機構は、遺伝子治療がドーピングの新たな手段となる前に、そのドーピング行為を発見するための研究を続けている。


目的のためなら手段を選ばない人が出てくるのが私たち人間の世界だ。ドーピングにより名声と、そして富も得られるならば、この遺伝子ドーピングに挑戦する人はきっと現れる。そして、ドーピングの効果を科学的に実証してみたいと考えるマッドサイエンティストも間違いなく現れ、両者の利害は一致する。

遅かれ早かれ、この遺伝子ドーピングはひそかに実施され、そしてもし、良い結果が得られるならば、ある日突然に当該科学者が売名行為に走り、事実が明るみに出る。


しかし、日本の社会でも同じドーピングが起こるであろうか? 日本人は得体のしれない遺伝子を極力嫌っている。海外から遺伝子組み換えの穀物を輸入するだけでも大騒ぎである。穀物は消化器で消化され、遺伝子もバラバラにされてから体内に吸収され、その後、体内の代謝系により必要な成分に再合成されるわけであるから、遺伝子組み換えの影響など全くないとの論理となるが、それでも日本人は遺伝子組み換えを極力嫌う。日本社会においては、遺伝子ドーピングが発覚すれば強烈なバッシングを受ける可能性がある。



NIKKEI NET 2月12日より

スポーツ界の次の波は “遺伝子ドーピング”

 冬季オリンピックが始まるこの時期、科学者らは最先端の遺伝子工学(genetic technology)を用いた新しいタイプの運動能力向上について警告を発している。

 米科学誌「Science(サイエンス)」2月5日号に掲載された論文によると、一部の研究者はすでに、遺伝子を操作して能力を向上させたり、けがの回復を早めたりする方法を知りたいアスリート(運動選手)やトレーナーからの問い合わせを受けているという。論文の共著者であるMark Frankel氏は、「遺伝子ドーピング(gene doping)」は不正行為であるだけでなく何が起こるかわからない危険をもたらす可能性もあると警告している。

 遺伝子療法は疾患治療の最も有望な戦略の1つとして世界中で研究が進められているが、アスリートがこれを利用する方法としては、赤血球産生を増大させることによって持久力を上げるものや、筋肉量を増強させるもの、代謝エネルギーの産生や利用を操作するもの、脂肪代謝や痛覚を変えるものなどがあるとFriedmann氏は説明している。

 2月12日にバンクーバーで開幕する2010年冬季オリンピックでも、ファンは選手の遺伝子操作による不正を疑うことになるのだろうか。Frankel氏によれば、おそらく現在はまだ遺伝子操作に必要な薬剤や技術を入手するのは難しいだろうという。しかし、インターネットではすでに数々の会社が「遺伝機構を活性化し……筋遺伝子を変える」とうたうなど、遺伝子操作による筋肉増強などを匂わせた疑わしい宣伝を掲載している。

 また、従来の運動能力向上薬も未だ出回っている。オリンピックで禁じられている薬剤は、精神刺激薬、蛋白(たんぱく)同化ステロイド(アナボリックステロイド)、ヒト成長ホルモンのほか、骨髄内の幹細胞に作用して赤血球産生を増大させ、持久力を向上する合成ホルモンであるエリスロポエチンなど。このような薬物は血液検査や尿検査で検出することができるが、遺伝子操作を検出する検査法はないとFrankel氏はいう。同氏はアスリートおよびトレーナーに対し、まずはリスクを認識するよう促しており、また、望むとおりの効果がないことや、健康に望ましくない不測の事態をもたらす可能性も指摘している。






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