118. ヒ素を食べて増殖する細菌! 宇宙外生命体かとも? 久々のショッキングニュースである

 2010年12月 3日掲載  2014年 1月20日再掲


このニュース、日本経済新聞の本日の朝刊のトップニュースとして大きく扱われ、その関連記事が第3面でも大きく取り扱われている。まさに人類にとってのビッグニュースでありショッキングニュースである。


追伸
その後の調査で得られた情報

砒素を取り込んで育つ細菌
http://wiredvision.jp/news/201012/2010120322.html

砒素を吸収して育つシダ
http://wiredvision.jp/archives/200102/2001020705.html




日本経済新聞のタイトル曰く、

異質な生命体発見 NASAなど 細菌、米国で
必須元素リン含まず 猛毒のヒ素使い増殖
地球外生命に可能性

さらに曰く、

生物の常識覆す
宇宙の生命 研究に一役
極限環境の生物 産業に応用も 廃棄物処理など

さすがに日本経済新聞である。社会の仕組みにこの最近の機能を取り入れることも忘れなかった。


生命の設計図ともいえるDNA中には、リンがその構成元素として用いられているが、この細菌のDNAはリンの代わりにヒ素が用いられているとのことである。リンを含む二重らせん構造は、自然の偶然のいたずらで出来上がったにしても、その構造には寸分の隙もなく機能的に作られていると信じられてきただけに、周期律表でリンと同じ周期に属するとは言いながら、リンよりも原子半径はそんなに違わないため(リンの原子半径1.00Å、ヒ素の原子半径1.15Å)、DNAに組み込まれているという説明である。だが、だれもにわかには信じられなかったのではないだろうか。

この細菌は全世界に広がっていると考えられている。隕石に乗って宇宙のどこかから地球上に飛来したものかもしれない。しかしながら、地球上においては、今回NASAがこの細菌を発見したような非常に特品環境、ヒ素の濃度が高く強アルカリ性であるような、このような環境は地球上には今日あまり存在しないので、この細菌が私たちの周りで増殖するようなことはないであろう。バングラディシュの地下水がヒ素汚染で問題となっているが、この細菌にとっては、その濃度は薄く、エサとしての魅力にはかけるかもしれない。

微量のヒ素は生物にとっては必要である。たとえば、遠い記憶であるが、金沢大学の正門、昔の金沢城の門の瓦には微量のヒ素が含まれていた。そこから落ちる雨だれにはごくごく微量のヒ素が含まれ、その雨だれを受けて育つ植物(シダ類?)は、ヒ素を含まない水よりも大きく育つと、約30年前?の現代化学という雑誌に記載されていたと思う。はるか昔の記憶なので、その確からしさは保証しかねるが、この記事もインパクトを持って読んだ記憶がある。



朝日新聞 12月3日.
ヒ素食べる細菌、NASAなど発見 生物の「常識」覆す

ヒ素を「食べる」細菌の走査型電子顕微鏡写真=サイエンス提供


 猛毒のヒ素を「食べる」細菌を、米航空宇宙局(NASA)などの研究グループが見つけた。生物が生命を維持して増えるために、炭素や水素、窒素、酸素、リン、硫黄の「6元素」が欠かせないが、この細菌はリンの代わりにヒ素をDNAの中に取り込んでいた。これまでの「生物学の常識」を覆す発見といえそうだ。

 今回の発見では、NASAが記者会見「宇宙生物学上の発見」を設定したため、「地球外生命体発見か」と、CNNなど国内外の主要メディアがニュースやワイドショーで取り上げるなど「宇宙人騒動」が起きていた。

 この細菌「GFAJ―1」株は、天然のヒ素を多く含む米カリフォルニア州の塩湖「モノ湖」の堆積(たいせき)物から見つかった。研究室で培養して調べたところ、リンの代わりにヒ素を代謝に使い、増殖していた。リンは、炭素などほかの5元素とともに、生命体が核酸(DNAやリボ核酸)やたんぱく質などを作るのに必要な元素だ。ヒ素とリンは化学的な性質が似ている。

 これまで、永久凍土や深海の熱水の中など「極限環境」で生きる微生物は複数見つかっているが、こうした性質はもっていなかった。

 地下水や土壌のヒ素汚染に苦しむ地域において、汚染環境の浄化に応用できる可能性も秘めているという。

 この発見は、生命が環境に応じて柔軟に対応できることを示しており、地球外生命体探しでの「生命に必須な水を探す」といった「常識」も覆される可能性がありそうだ。

 金沢大の牧輝弥准教授(微生物生態学)は「これまでは生物が利用できないと考えられていた物質の満ちた環境でも、微生物が増殖し生存する可能性が出てきた。この細菌の発見で生物細胞を構成する『六つの元素』の概念が変わり、生物細胞内での新たな代謝の仕組みが提唱されるかもしれない」としている。

 研究成果は2日付の米科学誌サイエンス電子版で発表される。(松尾一郎、勝田敏彦=ストックホルム)



さらに、
2010年12月12日掲載

ヒ素を食べて生きる微生物 DNAまでもヒ素が構成元素であるというのは本当かとの議論が始まる

リンの代わりにヒ素を用いて成長する、今までの常識からは考えもできなかった微生物が見いだされたとの、世界的なニュースについて書いた、わたしの12月3日付けブログの続報である。

今まで考えもしなかった出来事に関しては、今までもそうであったように、多くの科学者が追試をし、その追試で事実が確認されていく。最近の例では「常温核融合」が大きく報道され、その後多くの科学者がこの無尽蔵のエネルギーを得るための条件探しに奔走したが、現代ではそのような大きなエネルギーは得られないとの結論になっているようだ。発見があり検証があって科学的真実としての確かな位置づけが確定する。これが科学の進歩を確かなものとしていく。

今回のヒ素を餌とし、リンの代わりにヒ素をDNAの構成元素とする微生物の存在についても、これから多くの検証がなされ、その真偽が歴史に刻まれていくことになる。もし、この発見の事象が真実であるのならば、科学誌に残る大発見となる。今後の動向を注視していきたい。




Wired Vision 12月9日
「砒素で生きる細菌」に疑問の声

NASAの研究者らが12月2日付けで『Science』[翻訳版更新:Natureを訂正]に発表した「砒素で生きる細菌」(日本語版記事)について、他の研究者たちから、研究手法などの問題点を指摘する声が上がっている。

ブリティッシュ・コロンビア大学の生物学者Rosie Redfield氏は、発見された砒素は、細胞の中ではなく、ゲルの中に存在していたものである可能性が考えられると指摘している。同氏は12月4日に、自身の研究ブログに批判を掲載し、現在までに4万ヒットの閲覧を受けている。

Redfield氏の指摘は、今回の研究では、DNAとRNAを他の生体分子から分離するゲル電気泳動と呼ばれる手法を、標準的な装置を用いて行なう前や後に、DNAの適切な浄化がされていないというものだ。

試料の浄化には、「2ドルで買える簡単なキットと10分の時間」があればよく、「それによって、分析可能な純粋なDNAが得られる」とRedfield氏は話す。今回の研究にもこの手法は用いられているが、細菌のDNAに砒素が取り込まれたことを証明したとされる肝心の実験にだけは用いられていないという。

一方、ハーバード大学のAlex Bradley氏(微生物学・地球化学)は、また別の問題をブログ上で指摘している。

米航空宇宙局(NASA)等のチームが手がけた今回の研究では、DNAを水に浸している。水中では、砒素化合物はすみやかに分解する。もしDNAが本当に砒酸塩から作られていたのなら、水中で分解していたはずだと、Bradley氏は述べている。しかし実際はそうならなかった。このことは、DNA分子が互いをつなぎ合わせる材料として、より丈夫なリン酸塩を、依然として用いていた可能性を示唆するものだ。






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