117. サトウの切り餅」は越後製菓の特許を侵害せず ほんの少しの技術の差が商売に有利に働く特許事情

 2010年11月30日掲載  2014年 1月20日再掲

11月24日にはSAPの著作権侵害が認定されて13億ドルと巨額の賠償金支払い命令が出た。世界の潮流としては、特許権や著作権が強く主張され、権利を侵害するような経営は許されなくなってきている。中国だけは例外かもしれないが。

さて、日本でも特許を巡る争いが激しさを増してきた。その一つの判決が出た。切り餅の形状(切り込みの入れ方)について、越後製菓が佐藤食品を訴えていたものである。越後製菓の特許は切り餅の周囲に切り込みを入れることを特徴とし、佐藤食品の特許は周囲以外の面にも切り込みを入れることを特徴としている。

特許を精読し、実際にその効果を確かめてみなければ定かなことは言えないが、もし佐藤食品の切り餅のほうがきれいに整った形に焼くことができれば特許性ありということになる。ただし、形がきれいに整っているかどうかは、かなりの主観が入ってくる部分であるのでその判定は難しい。同じ効果を似た技術で達成する場合には、前例よりもはるかに優れた焼き上がりの形状となることが要求され、はたしてそうであるかが争点となってくる。

地方裁判所での越後製菓の敗訴とはなったが、高等裁判所に上告した場合にはどちらに軍配が上がるかは難しいところである。裁判官の主観によって判決が決まり、その判決を正当化するために、判決に至った理由がついてくることになると考えられる。この裁判、どちらに転んでも傍観者からは納得である。

話は変わるが、特許出願し、その出願が特許として認められるかどうかは、かなりのところ運任せである。特許とするかどうかは特許庁の審査官が審査してその決定を下すことになるが、いい特許官にあたれば特許となるし、反対の場合には失望を隠せない結果となる。同じ特許を海外に出願したものは特許となっているのに、日本に出した特許出願が特許にならない場合もある。

特許とは厳格なものと一般には考えられるかもしれないが、多分にその判断は流動的なものであり、その流動性が経営に影響を及ぼすことを十二分に理解して経営を行っていく時代となった。最高裁判所までの道は長いので、佐藤食品はまだまだ安心できないということである。




テレ朝ニュース 11月30日
「サトウの切り餅」特許侵害なし 上下にも切込みニュースの再生動画あり

側面に切り込みを入れた切り餅の特許を侵害されたとして越後製菓が「サトウの切り餅」の佐藤食品工業を訴えた裁判で、東京地裁は「特許の侵害にはあたらない」とする判決を言い渡しました。

 新潟県の食品メーカー「越後製菓」は、側面に切り込みを入れることにより、加熱して膨張した際の噴き出しを抑える特許を出願し、2008年に登録していました。越後製菓は、佐藤食品工業の「サトウの切り餅」がこの特許を侵害しているとして、製造・販売の差し止めなどを求めて提訴していました。30日の判決で、東京地裁は「佐藤食品工業の餅は、側面だけでなく上下にも切り込みが入っていて、特許を侵害していない」として越後製菓の訴えを退けました。




佐藤食品の特許 特開2005−34079  特許3620045  
【出願日】平成15年7月17日(2003.7.17)

【課題】 きれいに整った外観に焼くことができ、焼いて調理した後にきれいに分割することができ、さらに、調理する前の分割のしやすさを考慮した切り餅を提供する。
【解決手段】 上面2と下面3には十字の切り込み5,5’,7,7’を入れ、側面8,8’には横方向の切り込み9,9’を入れた。きれいに整った外観に焼くことができ、焼いて調理した後にきれいに分割することのできる切り餅を提供することができる。長辺4と略平行な切り込み5,5’の深さを切り餅1の厚さHの30〜40%とし、短辺6と略平行な切り込み7,7’の深さを切り餅1の厚さHの20〜30%とした。切り餅1の長辺4と略平行な切り込み5,5’と、切り餅1の短辺6と略平行な切り込み7,7’のどちらでも、同程度の力加減で割ることのできる切り餅を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面,下面,および側面に切り込みを入れたことを特徴とする切り餅。
【請求項2】
前記上面と下面には十字の切り込みを入れ、前記側面には横方向の切り込みを入れたことを特徴とする請求項1記載の切り餅。
【請求項3】
前記十字の切り込みは、切り餅の長辺と略平行な切り込みと、切り餅の短辺と略平行な切り込みからなり、前記長辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの30〜40%とし、前記短辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの20〜30%としたことを特徴とする請求項2記載の切り餅。








越後製菓


特開2005−323614  特許3817255

【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【分割の表示】特願2002−318601(P2002−318601)の分割
【原出願日】平成14年10月31日(2002.10.31

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に、周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする餅。
【請求項2】
角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の平坦頂面や載置底面ではなく上側表面部の側周表面に、周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の餅。
【請求項3】
角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に、周方向に連続させてほぼ環状とした若しくは周方向に沿って複数配置してほぼ環状に配置した切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の餅。
【請求項4】
丸餅などの輪郭形状がほぼ円形の小片餅体の上側表面部の周辺傾斜面である側周表面に、この輪郭縁に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項2記載の餅。
【請求項5】
丸餅などの輪郭形状がほぼ円形の小片餅体の上側表面部の周辺傾斜面である側周表面に、この輪郭縁に沿う方向を周方向としてこの周方向に連続させてほぼ丸環状とした若しくは周方向に沿って複数配置してほぼ丸環状に配置した切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項2,3及び4に記載の餅。
【請求項6】
切餅などの輪郭形状がほぼ方形の小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項2記載の餅。
【請求項7】
切餅などの輪郭形状がほぼ方形の小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に連続させてほぼ角環状とした若しくは周方向に沿って複数配置してほぼ角環状に配置した切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項2,3及び6に記載の餅。
【請求項8】
前記切り込み部又は溝部は、周方向に連続させてほぼ環状に設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の餅。



追伸)jijicom 2011年9月7日

「サトウの切り餅」特許侵害認める=越後製菓が実質逆転勝訴−知財高裁

 包装餅で売り上げトップの「サトウの切り餅」に入れられた切り込みが特許権を侵害しているとして、業界2位の越後製菓(新潟県長岡市)がサトウ食品工業(新潟市)を相手に、製造差し止めと14億8500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が7日、知財高裁であった。飯村敏明裁判長は「切り込みは越後製菓の発明の技術的範囲に含まれる」として、特許権侵害を事実上認める判断をした。
 特許権侵害についての中間判決で、製造差し止めの範囲や賠償額は今後審理される。一審は越後製菓側の請求を棄却していた。
 越後製菓は2008年、切り餅の側面に切り込みを入れることで、焼くときれいに膨らみ、中身が噴き出さない技術で特許を取得。側面に加え、上下面に十字の切り込みを入れた商品を販売したサトウ食品工業を09年に提訴した。
 飯村裁判長は、特許で保護された発明の範囲について「側面への切り込みが要件であることを記載したもので、上下面に切り込みのあるものを含まないとは理解できない」と判断した。




さらに、
2010年12月1日掲載

約100億円の切り餅市場を争って、越後製菓と佐藤食品が熾烈な特許バトル・・・ 

昨日のブログで本特許係争の詳細は記した。本日の東京新聞に具体的な金額が示されていたので追伸として記載する。

佐藤食品に市場規模100億円の30%、30億円の売り上げがあるとなると、越後製菓も引くに引けないので、この争いはやはり最高裁判所まで争われるのではないだろうか。


そういえば、連想ゲームとはなるが、フォンタナの空間概念にも価値ある切り込みがある。見る人が見ればこの価値がわかるのだろう。芸術の場合、意図的に贋作を作る目的でない限り、この線を数本増やしたところで問題になるとは思えないが。芸術にも著作権があり、やはりだめなのだろうか?






越後製菓の特許





佐藤食品の特許





東京新聞 12月1日
切り餅「サトウ」が勝訴 「越後製菓とは別の特許」

 包装餅で売り上げ一位の「サトウの切り餅」が特許権を侵害しているとして、越後製菓(新潟県長岡市)が佐藤食品工業(新潟市)に、切り餅の製造差し止めと十四億八千五百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が三十日、東京地裁であり、大鷹一郎裁判長は「特許権の侵害に当たらない」として請求を棄却した。

 判決などによると、越後製菓は二〇〇二年十月、切り餅の側面に溝状の切れ込みを入れる発明を特許出願。発明により、焼き途中での膨らみによる内部の吹き出しを防ぎ、焼いた後の見た目が損なわれない餅を実用化、〇八年四月に特許登録した。

 佐藤食品は側面だけでなく上下面にも切り込みが入った餅を開発し、〇三年七月に特許出願、〇四年十一月に特許登録した。越後製菓は〇九年三月、特許権を侵害されたとして提訴していた。

 大鷹裁判長は「二社の特許は、切り込みが入っている部分が異なっており、それぞれ別の特許だ」とし、特許権の侵害には当たらないと判断した。佐藤食品によると、同社の包装切り餅の業界シェアは三割弱。訴訟の対象商品の年間売上高は約百億円という。




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