105. オバマ米大統領、就任演説より受けた印象 端々に漂うプロテスタンティズム

 2009年 1月22日掲載  2014年 1月20日再掲


オバマ大統領の就任演説の一部を読売新聞より抜粋した。

彼の中に流れる複数の民族の血、多くの民族的な迫害、貧困、そしてその環境の中でも力強く生き、権力の頂点に達した自負。そして平和と平等と繁栄を再び取り戻すために、自国アメリカ国民に誠実や勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠心、愛国心といった価値観を求めている。

米国大統領は世界のリーダーである。しかし、この就任演説の中には自国民を愛する言葉はあっても他国に関する言葉は少ない。オバマ大統領の意識は、重大な危機下にある米国をいかに立て直すかのただ一点に焦点が置かれているように感じられる。

しかし就任演説はあくまでも希望である。演説の流れはわかりやすく、その口調は新約聖書の朗読のようでもある。大統領は◆変わる世界◆において、米国は種々の宗教を信じる人々、また無信仰の人々からなる国であると言っている。しかし、米国の根底に流れるのはキリスト教(プロテスタント)であろう。その証拠に、大統領の就任式でも裁判の宣誓でも、聖書に手をおいて宣誓するのである。

旧約聖書および新約聖書における物の考え方が、2000年以上に亘って西欧諸国の人々の深層心理に根付いている。聖書にある思考パターンで、そして聖書の言葉を引用して語ることが、西欧諸国では(おそらく)教養があり、仲間であることの証になるのであろうか? 今回の読売新聞の記事を読んで、聖書を読んでいるようだと感じた。

「旧約聖書」ユダヤ教の希望と激しさなくしてはイスラエルは希望の地に辿り着くことはできないであろうが、「新約聖書」キリスト教の愛とつくす心なくしては世界平和は達成できない。「父の神」と「子の神」をオバマ大統領がどのように調和するか、日本にとっては大きな関心事となる。

米国の繁栄・国益を再び取り戻すためには、オバマ大統領にはいばらの道が待っている。オバマ大統領が自ら神となって国民を約束の地に導くためには、当然他国との多くの軋轢も生じてくる。ユダヤ民族のように、方向感覚がないのか、何百年間も砂漠の中でさまよい歩くことになるかもしれない。イスラエルば国連の助けを借りてやっと約束の地に定住できたのである。

米国には早く繁栄を取り戻してもらいたいが、全世界的金融危機の中、その道のりはきっと長いものになるだろう。その道中で、オバマ新政権が日本経済に与える影響は決して小さなものではないと思える。オバマ政権の4年間で事態は好転するであろうか。しっかりと見守っていきたい。


読売新聞 1月21日
オバマ米大統領、就任演説全文(和文)
以下部分引用
 ◆危機への決意◆
 一部の者の強欲と無責任の結果であるだけでなく、厳しい決断をすることなく、国家を新しい時代に適合させそこなった我々全員の失敗の結果である。
我々が直面している試練は本物だ。試練は深刻で数多い。試練は容易に、または、短い時間で対処できるものではない。しかし、米国よ、わかってほしい。これらの試練は対処されるだろう。
 ◆国家の偉大さ◆
 尊い考えというのは、すべての人は平等で、自由で、あらゆる手段により幸福を追求する機会を与えられるという、神からの約束のことである。
 我々の国の偉大さを再確認するとき、我々は、偉大さが決して与えられたものではないことに気づく。それは勝ち取らなければならないのだ。
 ◆米国再生◆
 米国は依然として地球上で最も繁栄し、力強い国だ。
 なすべき仕事は至る所にある。米国経済は、大胆かつ迅速な行動を求めている。そして我々は新規の雇用創出のみならず、新たな成長の礎を整えることができる。
 我々が今日問うべきなのは、政府の大小ではなく、政府が機能するか否かだ。
 公的資金を管理する者は適切に支出し、悪弊を改め、誰からも見えるように業務を行う。それによって初めて、国民と政府の間に不可欠な信頼を回復できる。
 今回の(経済)危機は、監視がなければ、市場は統制を失い、豊かな者ばかりを優遇する国の繁栄が長続きしないことを我々に気づかせた。
 ◆変わる世界◆
 我々のつぎはぎ細工の遺産は強みであって、弱みではない。我々は、キリスト教徒やイスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、それに神を信じない人による国家だ。我々は、あらゆる言語や文化で形作られ、地球上のあらゆる場所から集まっている。
 我々には、南北戦争や人種隔離の苦い経験があり、その暗い時代から出てきて、より強く、より団結するようになった。我々は信じている。古くからある憎しみはいつかなくなり、民族を隔てる線も消えると。世界が小さくなる中で、我々に共通の人間愛が現れることになると。米国が、新しい平和の時代に先駆ける役割を果たさねばならないと。
 イスラム世界よ、国民は、あなた方が何を築けるかで判断するのであって、何を破壊するかで判断するのではないことを知るべきだ。
 ◆新しい責任の時代◆
 詰まるところ、わが国がよって立つのは国民の信念と決意である。
 我々の成功は、誠実や勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠心、愛国心といった価値観にかかっている。
 我々に求められているのは、新しい責任の時代に入ることだ。米国民一人ひとりが自分自身と自国、世界に義務を負うことを認識し、その義務をいやいや引き受けるのではなく喜んで機会をとらえることだ。




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