79. 水質基準にかかる水道法と食品衛生法

 2009年 2月12日掲載  2014年 1月15日再掲


水質基準とは 水道法とは 食品衛生法とは

 第3者(有識者、学識経験者)による事故対策委員会により今回の事故の原因が明らかになった。この部分は第14回の「12月の動き」に記したが、そこで示した新聞記事より再度引用すると、

朝日新聞 12月26日
基準外の水、夏から使用 伊藤ハム工場、塩素処理誤る
引用開始
 伊藤ハム(兵庫県西宮市)の東京工場(千葉県柏市)が、水道法の基準を超すシアン化合物を含む地下水でウインナーなどを作っていた問題に関連し、同工場で使った水は6〜9月に塩素酸がしばしば基準値を超えていたことが25日、わかった。水道法違反の水による製造は夏から続いていたことになる。
(中略)
 塩素酸の基準値超えについて今月半ば(注:12月半ば)まで知らなかったという岩本信剛・生産事業本部長は「水道法違反だが、食品衛生法違反ではない」と述べ、新たな製品回収はしない考えを示した。委員会は、担当者の基準違反に対する判断の甘さや、社内に法令順守の意識が薄いことなどを厳しく指摘、従業員教育や連絡体制の再構築を求めた。                 
                                       引用終了

水道法には違反だが、食品衛生法には違反していない。したがって、製品回収は必要ないとの論法である。

両法律に関連する記事は以下に示した。

水道法は、水道を利用して飲料水を消費者に供給する場合にきまりで、この場合、51項目の検査項目すべてに合格している必要がる。この51項目中に、「9.シアン化物イオン及び塩化シアン」と「21.塩素酸」の項目がある。今回の伊藤ハムの事件においてはこの両者共に基準値を超えていたわけである。

さて、水道法の中には、汲み上げた井戸水に関する基準も示されている。それが下に示した「食品製造用水の26項目」である。この項目中には、、「シアン化物イオン及び塩化シアン」と「塩素酸」の両項目は含まれない。代わりに「9.シアン」の項目が入っている。シアンの基準値は0.01mg/L以下となっている。

食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針」(厚生労働省、平成20年4月22日)によると次のようになっている。
7.使用水の管理
(1)食品取扱施設で使用する水は、飲用適の水であること
(3)水質検査の結果、飲用不適となったとくは、直ちに使用を中止し、保健所長の指示を受け、適切な措置を講ずること
(5)水道水以外の井戸水、自家用水道水を使用する場合は、殺菌装置または浄水装置が正常に作動しているかを定期的に確認し、記録すること

日本食品分析センターの「食品製造に関する水について」(平成10年10月)によると
飲用適水の適用範囲としては次のようになっている。
食肉製品の製造基準
   冷凍原料食肉の解凍水
   塩漬け食肉の塩抜き水、洗浄水
   加熱殺菌後の冷却水
また、食品衛生法に基づく水基準26項目が示され、シアンの基準値は0.01mg/L以下となっている。

井戸水の次亜塩素酸処理で取り除かれる可能性のあるものは、大まかには「1.一般細菌」、「11.大腸菌群」、そして「3.臭気」、「4.濁度」、「10.フェノール類」、「12.有機物」、「22.色度」といったところではないだろうか。原水でこれらの値が十分に基準値以下であれば消毒の必要はなくなる。

伊藤ハムの井戸水原水の状況は「アンモニア性窒素や有機物量が多い(報告書ページ7)」こと以外は、その詳細は残念ながら知ることができなかったが、もし、次亜塩素酸ソーダで処理することなしに利用できる水であったなら、今回のような事件は起こらなかったことになる。柏市保健所の分析により原水にシアンが含まれていないことはすでに確認されている(伊藤ハム報告書ページ17参照)。健康上の心配はないとの広報も柏市保健所から出ている。


一方、食品衛生法であるが、これは下に示した法律の項目のとおり、消費者に安全な製品を提供することを目的とした法律であり、厚生労働省の管轄である。安全な製品とはどのようなものか、安全な製品を製造するためにはどのようなことに留意して製造を行うべきかが示されている。第13回で説明したHACCPも安全な製品を作り上げるための方法(システム)であった。

食品衛生法の趣旨からすると、製品に「シアン化物イオン及び塩化シアン」の付着が全くないことが確実に証明されていれば、そして「塩素酸」が付着していないことが証明されていればよいことになる。付着していないことは10月29日には確認された。

従って、水道法には違反しているが、食品衛生法には違反していないという論法は成り立っているものと考えられる。


毎日新聞 10月29日
伊藤ハム地下水シアン化合物検出:回収4製品ではシアン成分出ず−−柏保健所検査
引用開始
 伊藤ハムの東京工場(千葉県柏市)の地下水から基準値を超えるシアン化合物が検出された問題で、同社が自主回収している製品のうち4製品を柏市保健所が検査したところ、シアン成分は検出されなかった。
 同保健所によると、検査したのは▽あらびきグルメウインナー(賞味期限08年10月21日)▽あらびきグルメウインナーグルメ家族(同10月19日)▽チーズインカマンベール(同11月2日)▽皮なしウインナーポーク&チキン(同11月1日)の4製品。保健所による製品検査は、今後は予定していないという。
 一方、伊藤ハムも製品の自主検査を行っており、30日以降に結果が出るという。【高島博之】
                                    引用終了

水道法 千葉県水道局のホームページより
引用開始
水道水の水質基準は、「水道法」及びこれに基づく「水質基準に関する省令」により定められています。
 この水質基準は、水道水の飲用により人の健康を害したり、その飲用に際して支障を生じるものであってはならないという観点から定められています。
注)9番がシアン化物イオンおよび塩化シアン、21番が昨年の4月1日より加えられた塩素酸です。塩素酸には赤血球への酸化ダメージが考えられます。

健康に関する31項目
  項目 水質基準値 解説
1 一般細菌 100 個/mL以下 飲料水の安全性を判断する指標の1つです。清浄な水には少なく、汚れている水ほど多い傾向にあります。多量に検出される場合は病原生物に汚染されている疑いがあります。
2 大腸菌 検出されないこと 人や動物の腸管内に存在し、検出された場合は病原生物に汚染されている疑いがあります。
9 シアン化物イオン及び塩化シアン 0.01 mg/L以下 自然水中にはほとんど含まれていませんが、めっき工場、鉄鋼処理工場、都市ガス製造工場、塵埃焼却場の排水などから混入することがあります。
21 塩素酸 0.6 mg/L以下 消毒剤として用いる次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素の分解生成物です。

水道水が有すべき正常に関する20項目
                                    引用終了

食品製造用水26項目
食品衛生法に基づく水質検査項目
1 一般細菌 14 亜鉛
2 塩化物イオン 15 蒸発残留物
3 臭気 16 水銀
4 濁度 17 フッ素
5 18 硬度(カルシウム、マグネシウム等)
6 19 有機リン
7 カドミウム 20 硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素
8 六価クロム 21 pH
9 シアン 22 色度
10 フェノール類 23
11 大腸菌群 24 ヒ素
12 有機物(過マンガン酸カリウム消費量) 25 マンガン
13 26 陰イオン界面活性剤


消毒副生成物12項目
1 シアン化物イオン及び塩化シアン
2 塩素酸
3 クロロ酢酸
4 ジブロモクロロメタン
5 ジクロロ酢酸
6 ジブロモクロロメタン
7 臭素酸
8 総トリハロメタン
9 トリクロロ酢酸
10 ブロモジクロロメタン
11 クロロモホルム
12 ホルムアルデヒド


食品衛生法 Wikipediaより
現行の食品衛生法の目的は、「食品の安全性確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ること」にある(1条)。

第1章 - 総則
       第1条 目的
       第2条 国及び都道府県等の責務
       第3条 食品等事業者の責務
       第4条 定義

第2章 - 食品及び添加物
       第5条 販売用の食品及び添加物の取扱原則
       第6条 販売等を禁止される食品及び添加物
       第7条 新開発食品の販売禁止
       第8条 特定の食品又は添加物の販売等の禁止
       第9条 病肉等の販売等の禁止
       第10条 添加物等の販売等の制限
       第11条 食品又は添加物の基準及び規格
       第12条 農薬成分の資料提供等の要請
       第13条 総合衛生管理製造過程に関する承認
       第14条 承認の有効期間・更新

第3章 - 器具及び容器包装
       第15条 営業上使用する器具及び容器包装の取扱原則
       第16条 有毒有害な器具又は容器包装の販売等の禁止
       第17条 特定の器具等の販売等の禁止
       第18条 器具又は容器包装の規格・基準の制定

第4章 - 表示及び広告
       第19条 表示の基準
       第20条 虚偽表示等の禁止

第5章 - 食品添加物公定書
       第21条 食品添加物公定書

第6章 - 監視指導指針及び計画
       第22条 監視指導指針
       第23条 輸入食品監視指導計画
       第24条 都道府県等食品衛生監視指導計画

第7章 - 検査
       第25条 食品等の検査
       第26条 検査命令
       第27条 食品等の輸入の届出
       第28条 報告徴収、検査及び収去
       第29条 食品衛生検査施設
       第30条 食品衛生監視員

第8章 - 登録検査機関
       第31条 登録検査機関の登録
       第32条 欠格自由
       第33条 登録の基準
       第34条 登録の更新
       第35条 検査の義務
       第36条 事業所の新設等の届出
       第37条 業務規定
       第38条 製品検査業務の休廃止の制限
       第39条 財務諸表等の備付け及び閲覧等
       第40条 役員又は職員の地位
       第41条 適合命令
       第42条 改善命令
       第43条 登録の取消命令等
       第44条 帳簿の記載等
       第45条 登録等の公示
       第46条 登録検査機関以外の者による人を誤認させる行為の禁止
       第47条 報告・立入検査等

第9章 - 営業
       第48条 食品衛生管理者
       第49条 養成施設・講習会
       第50条 有毒・有害物質の混入防止措置等に関する基準
       第51条 営業施設の基準
       第52条 営業の許可
       第53条 許可営業者の地位の承継
       第54条 廃棄命令等
       第55条 許可の取消し等
       第56条 改善命令等

第10章 - 雑則
       第57条 国庫の負担
       第58条 中毒の届出
       第59条 死体の解剖
       第60条 厚生労働大臣の調査の要請等
       第61条 食品等事業者に対する援助及び食品衛生推進員
       第62条 おもちゃ及び営業者以外の食品供与施設への準用規定
       第63条 処分違反者の公表等
       第64条 国民の意見の聴取
       第65条 施設の実施状況の公表及び国民の意見の聴取
       第66条 読替規定
       第67条 大都市の特例
       第68条 再審査請求
       第69条 事務の区分
       第70条 権限の委任


第11章 - 罰則
       第71条 〜 第79条 罰則

附則




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