17. バイオ燃料は現実味がある選択なのか?  予想されるその険しい未来!

 2007年 4月30日掲載  2014年 1月10日再掲


 今月6日に新日本石油がフランスよりバイオETBEを7800キロリットル輸入し、これをガソリンに7%混ぜ込んでバイオETBEとし、首都圏50箇所でこの27日より販売を開始した。2009年度までには販売拠点を1000箇所にまで拡大予定とある。

 さて、バイオETBEとはなにか? エチルターシャリーブチルエーテル(Ethyl Tertialy Butyl Ether)の頭文字をとったもので、化学式で表せば CH3CH2OC(CH3)3 となる。原料は原油のクラッキングで得られたイソブチレン(CH3C(CH3)=CH2)とフランスの小麦からのバイオエタノール(CH3CH2OH)であるので、厳密には、バイオETBEと呼ぶのは不適切である。なぜならば、ETBE分子中の炭素(C)6この内の僅かに2個のみがバイオ由来であるのだから、植物が大気中の二酸化炭素(CO2)より固定した炭素を、再び大気にCO2の形で放出して、プラスマイナスゼロとの考え方(カーボンニュートラル)が崩れる。

ETBEはつぎの反応式で合成される。

CH3C(CH3)=CH2  +  CH3CH2OH  →  CH3CH2OC(CH3)3
  イソブチレン       エタノール        ETBE

 バイオ燃料として、ヨーロッパ諸国ではこのETBEが主流となっているが、他の国々では、ガソリンにエタノールを混ぜ込んでバイオエタノールとしている。アメリカではその混合割合によりE10やE85が、ブラジルではE100もある。日本はエタノールを混ぜ込んだE3を実現すべく、現在検討が続けられている。なお、E10とはガソリンにバイオエタノールを体積で10%含むように混ぜ込んだ燃料を意味する。

 バイオエタノールは、蒸留によっても水が5%含まれるため、ガソリンに混ぜ込んだときにこの水が遊離してくる。水を含まないエタノールは抽出蒸留という特殊な蒸留方法で得ることができるが、エネルギーコストが余分に掛かることになる。また、水が含まれるガソリンがエンジンなどを痛めたり、ガソリンへのエタノールの混合割合が多くなるとエンジン自体の設計を変える必要がある。さらに、エタノールの持つエネルギーは、同じ体積の石油の72%と小さな値である。

 これに対して、ETBEは石油会社の現有設備や自動車のエンジンに改造を加えなくても良いので、業界の思惑が強く働きこのたびの導入となった。一方、バイオエタノールそのものは政府により開発計画が進められており、2030年までに年間600万キロリットルのエタノールの確保を目指す。日本国内の自動車向けの石油は約1億キロリットルであるので、その約6%に相当する量である。この量のエタノールを製造するためには、現在の日本国内の耕地面積よりも約4割広い360万ヘクタールの耕地が必要となる。非現実的である。世界で約8億人が不十分な栄養状態であると言われているが、バイオエタノール計画の推進により、ここに日本の1億人が加わる計算となる。

 この問題を解決する方法として、産業技術総合研究所などにおいて、木質系バイオマスからのバイオエタノールの製造可能性の検討がなされている。次図の通りである。

実際に、稲わらや木質建築廃材などを原料とするエタノール製造の小スケールでの実証試験も始まっている。

 以上述べてきたように、液体エネルギーの供給には今後大きな問題を孕んでいるため、日本の産業構造や社会構造に10年単位で大きな変化を引き起こすトリガーとなる可能性があると考えている。



「バイオマス燃料の現状と将来」
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol06_01/special/p14.html

「エタノール・ETBE製造技術の開発」
http://unit.aist.go.jp/btrc/ci/introduction/060619-EBCteam.pdf
(※再掲載の時点でリンク切れ)





図解入門 よくわかる最新バイオ燃料の基本と仕組み―次世代エネルギーの動向がわかる バイオマス燃料の現在・未来・課題
第1章 バイオエタノール(バイオ燃料の種類;バイオエタノールの化学組成 ほか)
第2章 バイオディーゼル(バイオディーゼルの化学組成;バイオディーゼルの作り方 ほか)
第3章 バイオガス(バイオガスの化学組成;バイオガスの作り方 ほか)
第4章 バイオ燃料市場の見方(バイオ燃料支援政策;バイオ燃料関連税制 ほか)

バイオ燃料で、パンが消える
第1章 パンを暖炉にくべる(バイオエタノールの危うさを理解するキーワード;バイオエタノールと各国の思惑)
第2章 バイオエタノールとは何か(バイオエタノールは何からつくられるのか;なぜ木材をエタノールにできないのか;バイオマスの全体像)
第3章 京都議定書とカーボン・ニュートラル(京都議定書はウソだらけ?;食糧のカーボン・ニュートラル性)
第4章 食糧はどうなっているのか(世界の食糧事情;日本の食糧事情)
第5章 私たちの生き残り作戦(海洋に資源を求める;温暖化を積極的に利用する;総合的に考えてみると……)




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